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新たなステージに入る日本のスマートフォン決済

2020/01/17

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スマートフォン決済は「選別」の時代に

日本のスマートフォン決済事業への新規参入企業数やのべ利用者数は、2018年以降急速に拡大した。しかし、のべ利用者数の増加は、国民の間でスマートフォン決済の利用のすそ野が広がってきたことを裏付ける、とは必ずしも言えないだろう。それよりも、各社のポイント還元競争に刺激されて、一人のユーザーが複数のスマートフォン決済サービスを利用する傾向をより強めた、という側面の方が強いように思われる。

そうした中、今後はユーザーが、利用するスマートフォン決済サービス(アプリ)を絞り込んでいく動きを強める可能性がある。日本のスマートフォン決済サービスは「乱立」の時代から「選別」の時代に入ってきたのである。

企業側も、ポイント還元を通じた過当競争状態を脱して、ユーザーの利用定着、ユーザーに主力のスマートフォン決済サービスとして選んでもらう、いわば「メイン決済」の地位確立を狙った新たな戦略を打ち出す必要が出てくる。

そうした戦略の一つが、他企業との事業の統合と、それを足掛かりにしたユーザーへの新たな利便性の提供である。

会員数1億人も視野に

スマートフォン決済サービスに関連して、事業の統合の例で広く知られているのが、ソフトバンクグループのZホールディングス(ZHD)とLINEが昨年11月に発表した経営統合だ。ソフトバンク、ヤフーの共同出資によるスマートフォン決済「PayPay(ペイペイ)」の会員数が現在約2千万人であるのに対し、LINEの「LINEペイ」の会員数は3,690万人だ。

他方、ZHD傘下のヤフーのサービス会員は月間利用者が6,700万人、LINEの利用者は約1億6千万人に及ぶことから、そうした会員をスマートフォン決済の利用へとさらに誘導できれば、統合されたスマートフォン決済のユーザー数が1億人に達することも、将来的には視野に入ってくるかもしれない。

また両社の統合によって、決済機能とメッセージ機能をより連動させた、新たなサービスをユーザーに提供できる可能性も出てくるだろう。さらにLINEペイは、昨年12月から個人や企業の銀行口座に振り込めるサービスを始めている。1日10万円を上限にして、手数料は一律176円となる。3メガ銀のネットバンキングを利用した場合には、他行宛ての3万円以上の振り込み手数料が330~440円かかることを考えれば、かなり割安だ。

この統合に触発されたと考えられるのが、昨年12月に発表された、KDDIとローソンの間でのスマートフォン決済の提携である。KDDIは、ローソンと同じ三菱商事グループに属する共通ポイント「Ponta(ポンタ)」の運営会社にも出資して、電子マネーをポンタと共通にする。そこで狙っているのは、スマートフォン決済での会員数1億人獲得である。auの電子マネーの会員基盤は2,800万人で、ポンタの会員は国内で9,200万人超である。両社の会員基盤を単純に合計すると、延べ1億人を既に超えている。

この提携が成立すれば、携帯電話の位置情報データを使って、ユーザーがコンビニの近くを通りかかると、好みの商品の入荷情報や商品のクーポンがスマートフォンを通じて配信される、といった新たなサービスの提供も可能となるだろう。

銀行系も新たなサービスを提供

銀行系では、みずほ銀行が昨年3月から、地銀と連携してスマートフォン決済「Jコインペイ」を開始している。参加金融機関数は、2019年末時点で91行にも達している。ただし利用できる店舗はなお比較的限られ、登録者数も約13万人と伸び悩んでいる印象である。

しかし、「Jコインペイ」では、銀行系ならではの新たなサービスも提供されている。それは企業向けサービスであり、サービス名は「Jコイン・ビズ」だ。企業が従業員に交通費など経費を精算する際の手数料を、1件につき100円とするものである。従業員の銀行口座に経費を振り込む場合の手数料の半額以下にして、企業へのJコインペイの普及を図る狙いがある。

現状の法制度では、企業が従業員に給与を支払う際には、現金で渡すか銀行口座に振り込むことが義務付けられている。そのため、「Jコインペイ」の企業向けサービスの対象も、現状では交通費など経費の精算に限られる。しかし政府は、デジタル通貨での給与支払いを解禁する方向で現在検討している。それを視野に入れているのが、三菱UFJ銀行の新たなサービスだ。

三菱UFJ銀行はリクルートホールディングスと共同出資会社を設立し、2020年前半にデジタル通貨「coin(コイン)」を使ったキャッシュレス決済のサービス開始を目指している。当面は、リクルートが展開する飲食店情報サイト「ホットペッパーグルメ」や旅行予約サイト「じゃらん」の掲載店などでキャッシュレス決済ができるようにする見通しだ。さらに個人間送金を可能にし、割り勘のニーズにも対応する。

ただし、消費者向け事業で一定のシェア(占有率)を獲得できれば、「Jコインペイ」と同様に、法人向けビジネスへの参入も目指しているという。その一つが、企業によるデジタル通貨での給与支払いサービスなのである。

サービスの質を競うより成熟した局面へ

日本のスマートフォン決済サービスは過当競争に陥っており、各社の収益は悪化している。その収入は加盟店からの手数料にほぼ限られるため、利用者増を狙ったポイント還元キャンペーンを大規模に実施すると、その費用がかさんで赤字に陥りやすい。実際、2019年7~9月期の連結決算では、ヤフーを運営するZホールディングス傘下のペイペイの事業で、約200億円の赤字が計上された。LINEも、LINEペイを含む事業は139億円の赤字となっている。

今後は、体力のない事業者が脱落、あるいは他社に統合・吸収される形で、スマートフォン決済事業の整理がさらに進んでいく可能性がある。それと並行して、ユーザー向けのサービスの差別化も進んでいくだろう。それを促すのが、ユーザーによるスマートフォン決済サービスの絞り込みの動きである。

日本のスマートフォン決済ビジネスは、乱立状態を経て、サービスの質を競う、より成熟した局面に入ってきたと言えるのではないか。

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