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日本型雇用制度の見直しがテーマの2020年春闘

2020/01/29

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2020年春闘では賃上げに逆風

経団連の中西会長と連合の神津会長は28日に、賃上げや雇用制度などを巡ってトップ会談を行った。2020年春闘の事実上のスタートである。

賃上げという観点からは、2020年の春闘は労働者側に厳しいものとなりそうだ。2019年の春闘では、ベアは平均で0.56%、定昇相当を含む賃上げ率は2.07%となった。これは前年の2018年とほぼ同水準であった。景気情勢の悪化を受けて、2020年はこれらの水準を下回る可能性が高いだろう。政府が賃上げを後押しする、いわゆる「官製春闘」が始まった2014年以降、大手企業の定昇相当を含む賃上げ率は2%超が続いてきた。しかし、今年は7年振りに2%割れとなる可能性が十分にある。

個別の労働組合の要求を見ると、高い賃上げ要求を控える守りの姿勢が既に見られる。トヨタ自動車労働組合は、全組合員平均で月1万100円の賃上げを求める方針を決めた。ベア額は前年に続き具体額を非公表とする。2019年の春闘では組合側が月1万2千円の賃上げを要求し、月1万700円で妥結した。単純比較はできないと言うが、要求額は昨年の水準をかなり下回っている。

また、ホンダ自動車労働組合は、2020年の春闘で要求するベア相当額を月2千円とする方針を決めた。これは2019年の要求の半分であり、ベアが復活した2014年以降で最も低い水準だ。

日本型雇用制度の見直しを掲げる経団連

トップ会談で経団連の中西会長は、「これまで続いてきた賃上げのモメンタムは大事だということが大前提だ」として、賃上げに理解を示す発言を少なくとも表面的にはしている。他方で、中西会長は、新卒一括採用や終身雇用、年功型賃金といった「日本型雇用制度」の見直しを今年の春闘のテーマに掲げる考えを示している。

日本型雇用制度の見直しというテーマは新味を欠き、今さらという感じもある。見直しは既に部分的に進んでいる面もある。ただし、連合の神津会長はこのテーマに強く反発している。それは、日本型雇用制度の修正の過程で生じた非正規社員の拡大などの雇用の流動化が、所得格差を拡大させ、またそれを定着させてしまったという認識があるのだろう。

神津会長はむしろ、企業が一定期間採用を手控えたことで非正規雇用が急増した、就職氷河期問題が繰り返されないよう、雇用のセーフティーネット(安全網)をはりめぐらせる必要がある、と強調する。そして、賃金制度の柔軟化が、さらなる所得格差の拡大につながることを強く警戒している。

このように、日本型雇用制度の見直しについて、労使間の意見は大きく分かれているように見える。しかし実際には、労働組合の中でも年功型賃金制度を見直し、能力に応じた賃金格差の拡大を認める動きが出ている。

春闘という制度の見直しも重要に

トヨタ自動車労働組合は、基本給を底上げするベア部分について、5段階評価に応じた変動幅を現在よりも広げ、配分を見直すという方針を発表している。同委員長は、「がんばる組合員にどう報いるか、各職場とやり取りしたうえで固めた案だ」と説明している。賃金に差をつけることで、優秀な社員をつなぎ止め、そのモラルを高めることが重要であることを、労働組合も十分に理解しているのである。こうした動きに、連合の方針が水を差すことが果たして良いことなのか。

経団連は日本型雇用制度の見直しを掲げているが、一気にすべてを変えることを意図しているのではなく、主に、デジタル人材への対応を念頭に置いているようだ。そうした人材を企業が採用し確保するために、従来の制度とは異なる初任給を設定し、旧来型の年功序列に拘らない昇給を認めることについて、理解を示す労働組合も少なくないだろう。それにも関わらず、連合が一律、賃金制度の柔軟化に慎重な姿勢を示すとすれば問題ではないか。

他方で、デジタル人材の活用がどの程度会社経営にとって重要であるかは、個々の産業、企業によって大きく異なるはずである。そうした中、経団連が一律に制度の見直しを掲げることが良いことなのか。個々の企業ごとに、雇用制度、賃金制度の見直しを労使間交渉でフレキシブルに実施していくことがまず重要であろう。春闘という制度は、そうした動きの障害になっている面はないだろうか。

最も先に着手すべきなのは、時代遅れとなった春闘という制度の見直しではないか。

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