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FRBもイールドカーブ・コントロール導入に動くか

2020/01/30

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政策金利がゼロ近傍まで低下した後の対応

1月29日の米連邦準備制度理事会(FOMC)では、事前に予想された通りに、金融政策の変更は見送られた。他方、注目されたのは、「インフレ率はわれわれの2%目標を持続的に下回っていることを心地よく思っていない」という、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見での発言だ。

議長のこの発言が、近い将来の追加緩和の可能性を示唆している訳ではない。政策金利(FF金利の誘導目標)を適度な水準まで引き下げる調整が完了し、また経済の下振れリスクが後退するなか、FRBは今後も政策を維持するだろう。

しかし、物価上昇率が目標値を下回り続けていることへの問題意識は、FRB内で消えることはないだろう。これへの対応が、FRBが昨年から続けている「金融政策の枠組み見直し」の大きなテーマの一つである。

そして、「金融政策の枠組み見直し」のもう一つの大きなテーマであるのが、今後、政策金利がゼロ近傍まで低下した場合の、金融政策運営である。現在のFF金利の誘導目標は1.5%~1.75%であるから、0%までなお引き下げ余地は残されている。他方、FRB内では、マイナス金利政策の導入に対する否定的な意見は非常に根強い。それは、法的な不透明さに加えて、金融機関への悪影響、日本と欧州の例に照らしてプラスの効果が不透明であること、などが背景だ。

国債利回りに上限の目標を設定する政策

そこで、景気情勢の悪化等を受けて、政策金利がゼロ近傍まで再び低下した場合には、資産買入れ策の実施と政策金利を長期間低位に維持することを約束するフォワードガイダンスの導入が最も考えられるFRBの対応策である。いずれもFRBが既に実施し、ある程度知見を蓄積したものであり、不測の事態が生じるようなリスクは大きくない。

ところが、既に試した政策手段の場合には、それが非常に有効に作用したとの認識が広く共有されてない、新味に欠く、サプライズがない、ということで、景気刺激や物価上昇率の押し上げ効果が大きくならない、との意見が、FRB内では強いのではないかと推察される。

そこで、政策金利がゼロ近傍に接近する段階で新しい金融政策手段を導入することの議論がFRB内でなされている。それが、国債利回りに上限の目標値を設定することだ。

FRBのブレイナード理事は昨年11月の講演会で、政策金利が再びゼロ%に引き下げられた場合、単に債券買い入れに依存するのではなく、FRBが国債利回りにそれぞれの上限を設定し、必要に応じて介入を行うことを提案している。

従来の国債買入れ策も、イールドカーブ全体を押し下げることを通じて政策効果を発揮させることを狙っている点で、この国債利回りの上限設定の政策と共通している。

低めに設定した各ゾーンの国債利回りの上限目標を明示し、その達成を約束するため、従来の国債買入れ策と比べてより少ない買入れ額で同等あるいはそれ以上の効果を発揮する、との議論もあるようだ。国債利回りの上限設定政策は、金利押し下げを狙う従来の国債買入れ策と、期待に働きかけることで政策効果を高めることを狙う従来のフォワードガイダンスとを組み合わせたもの、と考えることができるだろう。

中央銀行はイールドカーブをコントロールできない

FRBは1942年から1951年にかけて、政府の国債管理政策への協力を強いられる形で、短期、中期、長期の国債利回りに上限を設定する政策を導入した。この時には、インフレ率の上昇などを受けて利回りに上昇圧力が掛かり、FRBが、国債利回りが上限目標を超えないように国債買入れを拡大させたことで、買入れ額が無秩序に急増した、という苦い経験がある。

インフレ率が明確に高まる局面では、国債利回り上限設定の政策は不要になるため、FRBが国債買入れのコントロールを失うことを心配する必要はない、との意見もあるだろう。

しかし、実際には、インフレリスクが大きくなく、物価上昇率が目標値を下回っている状況下であっても、様々な要因によって国債利回りが顕著に上昇することは起こり得る。その際に、FRBが、国債利回りが上限目標を超えないように国債買入れを拡大させれば、FRBがコントロールを失う形で買入れ額は急増してしまうだろう。それは、国債市場の流動性を大幅に低下させる、FRBのバランスシートの膨張をもたらし、将来的にFRBの収益を大幅に悪化させる、など様々な副作用を生じさせるのである。

こうした点を踏まえると、FRBが国債利回り上限設定の政策を導入する可能性は高くはないだろう。少なくともその導入に向けたハードルは、相応に高いのではないか。日本銀行のイールドカーブ・コントロールの経験を踏まえても、中央銀行が様々なゾーンの国債利回りを思うようにコントロールできると考えるのは、全くの幻想に過ぎないのである。

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