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新型肺炎でもFRB頼みの金融市場

2020/02/05

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市場に織り込まれた米国利下げ確率は年末までに86%

新型肺炎の拡大を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が金融市場に浮上し、これが米国を中心に世界の株価を支えるという状況になっている。

過去の経験に照らせば、感染症の拡大で株価が下落した際には、株価は比較的早期に回復する、ということを強調する意見が市場では相応に広がっている。2003年に感染が広がったSARSは、香港株式市場には甚大な影響を与えたが、米国などその他地域の株式市場への影響はそれほど大きくなかった。

日本では、株価は2003年4~5月に底を打った。これはSARSの感染が2月に本格的に拡大を始めてから数か月後のことだ。ただしこの際の日本株の下落は、SARSよりも同年3月の米国のイラク侵攻の影響の方がより大きかったのかもしれない。また、古くは1918年にスペイン風邪が猛威を振るう中、第1次世界大戦の終結が近づいたこともあり米国株価は上昇したという。

こうした過去の不正確な経験則に加えて、「何かあればFRBが金融緩和で助けてくれる」という願望が、足もとの米国株式を支えている面がある。

ブルームバーグ社によると、2月4日時点でFF(フェデラルファンズ)金利先物の価格から計算される年末までの政策金利引下げ、いわゆる利下げの確率は、86.2%にも達している。年内0.25%の利下げと、合計0.5%の利下げとが概ね同程度の確率で市場に織り込まれている。年初時点では、年末までの利下げの確率と利上げの確率とが50%程度で概ね拮抗していた。

株式市場の「困った時のFRB頼み」の期待は過大に

その後、イランと米国との軍事対立のリスクが高まった際に、利下げ確率がやや上昇したが、本格的に上昇したのは新型肺炎問題がきっかけだった。

他方、今年3月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ確率は14.6%と高くない。利下げ確率が初めて50%を超えるのは6月のFOMCだ。FF金先市場に織り込まれているのは、新型肺炎の蔓延を受けた金融市場の動揺を鎮めるために、緊急的にFRBが利下げをするというシナリオではないようだ。新型肺炎の影響を受けて経済が徐々に減速することを受けて、FRBが金融緩和にいずれ踏み切るというシナリオなのだ。

しかし、新型肺炎の影響が米国経済にどの程度及ぶかは明らかではない。FRBも、現時点では利下げを真剣に検討している訳ではないだろう。実際、利下げが実施される可能性は現時点では高くなく、市場に織り込まれている利下げ観測も過大と思われる。

仮に利下げが実施されるとすれば、新型肺炎の拡大を抑えるための中国政府の政策、例えば海外渡航制限、工場停止、物流遮断などの人為的な措置に端を発する形で、米国経済に悪影響が及んだ際だろう。しかしその際には、通常の景気減速時のようにFRBの予防的利下げがどの程度景気下支え効果を発揮するのかは明らかではない。FRBが米国経済を助けられるかは明らかではないのである。この点を踏まえても、市場はやや楽観的過ぎるのではないか。

他方、現時点ではリスクシナリオであるが、新型肺炎の拡大が世界経済を一気に深刻な後退局面へと陥れる程の影響度を持つ場合には、現在1.5%~1.75%のFF金利の誘導目標をゼロ近傍まで下げても、十分な景気刺激効果は発揮されず、有効な金融緩和手段がない状態になる。そうなれば、金融市場は先行きの経済への不安をかなり強めることになるだろう。市場はこうした可能性を全く考慮していないように見える。

このように幾つかの意味で、「困った時のFRB頼み」に基づく株式市場の楽観論は、明確な根拠を欠いており行き過ぎていると言えるのではないか。

(参考)「新型ウイルス、米株式市場に過信はないか」、2020年2月3日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

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