フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日本銀行による銀行手数料体系見直しのすすめ

日本銀行による銀行手数料体系見直しのすすめ

2020/02/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

口座維持手数料の導入が選択肢

日本銀行決済機構局は2月10日、「銀行の決済サービスの課金体系に関する考察」と題するレポートを公表した。基礎的なミクロ経済学を踏まえて、銀行の決済サービスに関する手数料の分析を試みた興味深いレポートである。

銀行の手数料は銀行自らが決定するものであることから、同レポートでも、日本銀行がその決定に強い影響を与えることに慎重な姿勢は崩していない。しかし同レポートを通じて日本銀行は、個別のサービス毎に利用者に手数料を課す「個別課金制」から、いわゆるプラットフォーマーのサブスクリプションに相当する「定額課金制」、あるいは両者を組み合わせた「二部料金制」の優位性を主張しているように見える。そして日本銀行は、銀行に口座維持手数料の導入を促しているようでもある。

送金などの決済サービスは、一回当たりのサービスの提供にかかる費用、いわゆる限界費用がかなり低い。その限界費用に一致する水準でサービスの価格が決まるのが、ミクロ経済学が示すところである。

しかしそれでは、決済システムの構築のために銀行が投じた固定費が賄われずに、銀行の収益が圧迫されてしまう可能性がある。マネーローンダリング対策のための本人確認(KYC)にかかる費用もこの固定費に含めて考えられるが、それも規制が強化されるなかで増加を続けている。

銀行にはネットサービスのフリーミアムは成り立たない

プラットフォーマーであれば、ネットサービスの価格を低い限界コストに見合ったかなりの低水準に設定しても、あるいは無料で提供しても(フリーミアム)、利益を上げることが可能だ。その一つのチャネルが、補完財の存在だ。アップルはiPhoneのユーザーに低価格でアプリを提供しても、高額のiPhoneの販売を通じて利益を確保できる。魅力あるiPhone向けアプリをユーザーに提供すれば、iPhoneの販売を増やすことができるのである。

もう一つのチャネルが、個人データの活用だ。プラットフォーマーがネットサービスをユーザーに無料で提供しても、そこから得られる個人データ、例えばネットショッピングでの商品購入履歴、SNSの投稿、ネット閲覧・検索などをプラットフォーマー自らのビジネスに活用し、またターゲット広告への利用など外部に販売することで収入を得る。

ところが、銀行は決済サービスの補完財や個人データの活用で利益を上げることは難しいのである。そこで、個々の決済サービスの手数料を、その限界コストを上回る水準に設定することで、固定費をなんとか賄おうとする。実際、今年は銀行による手数料引き上げが相次ぐ(本コラム「日本の銀行で口座管理手数料導入に向けた動き」、2020年1月20日)。

魅力あるサービスの提供が鍵に

しかしこうした流れは、残念ながら、顧客の反発と銀行離れを助長してしまうかもしれない。他方、欧米などで一般的な口座維持手数料という定額制を導入したうえで、多くの決済サービスを無料で使い放題とすることで、顧客の間にお得感を醸成できればどうだろうか。それにより、顧客の銀行離れに歯止めをかけるとともに、銀行が決済サービスの固定費を十分に賄うことができ、収益環境を安定させることができるかもしれない。

問題は、決済サービスを受けているという意識が日本の人々の間では概して低いことだろう。銀行にお金を預けておけば自然にお金が増えるのは当たり前だが、何をしなくてもお金が減っていくことへの抵抗は強いのではないか。こう考えると、口座維持手数料導入でサブスクリプション制度へ移行していくことは、簡単なことではない。

顧客が銀行から生活上欠かせない決済サービスを受けていること、銀行がそれを提供するにはかなりの費用がかかっていること、などをまず顧客に理解してもらうような働きかけが重要だ。その上で、顧客にとって魅力的な新たなサービスの提供とセットにして、口座維持手数料を導入していくという形でないと、上手くいかないのではないか。

無料サービスに慣れたユーザーの多くをサブスクリプション制に誘導できた、アマゾンのようなプラットフォーマーの優れた戦略から、日本の銀行は学ぶことができる面もあるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ