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特許から浮き彫りになるデジタル人民元の実相

2020/02/14

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デジタル人民元を既存の銀行システムに統合

中国人民銀行(中央銀行)が発行準備を進めているデジタル人民元については、公表されている情報がほぼないことから、その実態は依然として不明である。そうしたなか、フィナンシャル・タイムズ紙は、中国人民銀行がデジタル通貨発行計画に関連して84の特許を申請していることを報じている(注1) 。その特許内容から、デジタル人民元の姿をある程度類推することが可能となるだろう。

調査に協力した弁護士のマーク・カウフマン氏は、「事実上、申請された特許のすべては、デジタル通貨のシステムを既存の銀行のインフラに統合することに関係している」と説明している。

当初、中国人民銀行は、「銀行ビジネスに悪影響を与えない観点などから、既存の銀行システムと分かれた形でデジタル人民元のシステムを構築する。これは、銀行システムに強く依存したアリペイ、ウィーチャットペイとは大きく異なる点だ」、といった主旨でデジタル人民元について説明していたと思うが、実際にはそうではない可能性が出てきた。

銀行預金を用いた銀行間決済とデジタル人民元の銀行間決済とを、一体のシステムで行なう技術の特許も含まれている可能性がある。さらに、デジタル通貨ICカードやウォレット技術に関する特許もあるという。これは、デジタル人民元を口座で管理するもの(口座管理型)と並行して、プリペイドカードでその価値を持ち運ぶことをも可能にすること(分離型)が構想されているのかもしれない。

また、利用者自身がデジタル人民元の残高を自身で管理し、送金することができるような、クライアントウォレットが構想されている可能性もある。

中国人民銀行が取引情報を全て把握するか

フィナンシャル・タイムズ紙によると、申請された特許の中には、ローン金利などのトリガー(引き金)に基づき、中央銀行がデジタル通貨の供給量をアルゴリズムで調整する計画を示唆するものもある、という。

中国人民銀行は、自らが直接個人や企業にデジタル人民元を供給するのではなく、銀行などを通じて供給する「二層運営システム」を採用することを明言している。この場合、デジタル人民元の発行量は、個人が必要に応じて銀行口座の預金をデジタル人民元に換える(チャージする)ことによって決まる。つまり、デジタル人民元の発行量は、需要によって自然と決まるものとなるだろう。

この点に照らすと、デジタル人民元の発行量をアルゴリズムで自動的に決めるという特許技術を中国人民銀行が申請していることは、非常に不可解である。

前出のマーク・カウフマン氏は、「個人間での取引でプライバシーを保証するための特許はあるが、中国人民銀行が利用者の取引を全面的に監視することを妨げるメカニズムは存在しない」、と指摘している。

中国人民銀行はデジタル人民元を、個人がプライバシー保護に不安を抱いているアリペイ、ウィーチャットペイとは異なる匿名性が確保される新たな決済手段を提供するもの、と以前説明していた。上記の指摘は、これと全く矛盾するものである。

このように、中国人民銀行が申請している特許からも、デジタル人民元の実態に大きく迫ることはなお難しい。恐らく、デジタル人民元が実際に発行されてからでないと、その仕組みは明らかにならないのではないか。

これは、デジタル人民元に用いられる仕組み、技術などを探り、この分野で中国が優位に立つことをなんとか妨げようとする他国に対抗する、中国当局の戦略なのではないか。

 

注1)“Patents lay bare scale of China’s ambition to digitize the renminbi”, Financial Times, February 13, 2020

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