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新型肺炎が浮き彫りにする中国ネット社会の光と影

2020/02/19

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政府のネット情報統制に強い批判

新型肺炎の拡大が続く中、インターネットの利用が高度に進んだ中国では、そのプラス面とマイナス面とが同時に浮き彫りとなっている。

中国国民は、政府が発表する新型肺炎に関する情報が十分ではない、あるいは信ぴょう性を欠くと考え、SNS等のネット情報に頼る傾向を強めている。しかしそのことが、ネット上でフェイクニュースの蔓延を誘発してしまった面もあるだろう。

他方で、新型肺炎に対する中国政府の初期対応の不手際、特にネット上で不適切な情報統制を行ったことが新型肺炎の拡大を許してしまった、との批判もネット上で広まっている。これを政府が取り締まる、いわゆる情報統制を強化することが、政府への国民の反発をさらに強める、といった悪循環を生じさせている。

そうしたなか、中国の著名学者ら約360人近くが、新型肺炎の流行は、当局の情報統制によってもたらされたいわば「人災」だとして、言論や報道の自由を求める声明を発表した。

言論や報道の自由を求める動き

そのきっかけとなったのは、ネット上で新型コロナウイルスの感染拡大にいち早く警鐘を鳴らした湖北省武漢市の李文亮医師を、デマの情報を流したとして当局が処分したことだ。2月7日には同医師が新型肺炎で死亡し、身をもって自らの主張の正しさを証明する形となってしまった。

その結果、同医師は国民の間で英雄視されるようになる一方、自由な言論を不当に制限した当局の情報統制が、新型肺炎の蔓延を許してしまったとの批判が、強まっていったのである。この一件は、中国の政治を大きく揺さぶり始めた、と言っても過言ではないだろう。

中国版ツイッターである「微博(ウェイボ)」などのSNSでは、新型肺炎関連の情報を収集することが現在難しくなっている。体制批判の拡大を恐れる当局が、監視を強化しているためだ。

このため、中国のネットユーザーの間では、当局の閲覧規制を回避できるVPN(仮想プライベートネットワーク)を使って、グーグル、ツイッターあるいは海外の新聞の情報などにアクセスしようとする動きが強まっている。しかし、そのVPNにも当局の統制が及んで、ネットにつながりにくくなっているという。

新型肺炎の拡大をきっかけに当局の情報統制のあり方に国民は疑問を強め、それが、言論や報道の自由を求めるなどの社会変革の機運につながっているのが中国の現状である。

学校でのネット授業やテレワークが可能に

以上が、新型肺炎が拡大する中で浮き彫りになった中国ネット社会のいわば影の部分であるとすると、ネット社会の光、その良い部分も同時に注目を集めている。

中国の各地では、新型肺炎の影響で学校を再開できない中、インターネットやテレビを通じた授業が始まっている。共同通信によれば、教育省は2月17日に、新型肺炎の拡大を防ぐために、通信会社の協力の下、全国約1億8千万人の小中高生が、自宅でネットを通じて授業を受けられる体制を整えたという。日本では到底考えられないことだ。

他方で、中国の企業の間では、テレワーク(リモートワーク)が急速に広がっている。ネット企業もここを商機とみて、一気にサービス強化を打ち出しているようだ(ZDNet Japanによる)。

テンセントは企業版ウィーチャット「企業微信」とオンライン会議システムやオンライン問診システムの機能強化、バイトダンスは、企業向けSNS「飛書」の機能強化をそれぞれ進めている。またここを商機と見て、テレワーク関連機器の販売促進を強化する動きも見られる。アリババは、ビデオ会議システムを含むオフィスソリューションを、1千万社に無料で提供すると発表した。バイトダンスも、企業向けSNS「飛書」を湖北省の学校や公益組織に3年間無料で提供すると発表した。

この機会を狙って、ネット企業は、競争が激しいレッドオーシャンである個人向けビジネスから、競争条件が未だ厳しくないブルーオーシャンの企業向けビジネスへと、一気にサービスを拡大させる戦略をとっているのである。

日本にとっての教師であり反面教師でもある

また、ネットが企業の再開を助けている面もある。検索大手の百度(バイドゥ)は2月14日に、自宅で待機している社員に対して、企業の再開に関わる懸念の調査を行い、その結果を発表している。「肺炎に感染したときに労災が適用されるか」、が最大の懸念に挙げられたという。それ以外は、「従業員へのマスク配布がされるか」、「社員食堂は安全か」、「セントラル空調の消毒はされているか」等であった。企業の再開を前に、この調査が従業員を受け入れるための企業側の課題を浮き彫りにしている。

このように、既に高度に発展した中国ネット社会で、ネット企業の積極的な対応、当局の働きかけなどが加わって、新型肺炎が蔓延してもテクノロジーの活用を通じて教育や企業活動が維持され、中国社会が回るようになっている。

ネット上での政府の情報統制が、政府に対する国民の不信を高めている前半の点は、政府の情報発信のあり方を考える上で、日本にとっては反面教師と言える面があるかもしれない。しかし、ネットや新たなテクノロジーの活用によって、新型肺炎が社会に与える打撃を軽減させる後半の試みについては、日本にとっては教師となる面も多分にあるのではないか。

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