フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 新型肺炎の対応等で議論が深まらなかったG20

新型肺炎の対応等で議論が深まらなかったG20

2020/02/25

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新型肺炎で経済対策だけを議論しても意味はない

主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、2月22日、23日に、サウジアラビアのリヤドで開かれた。そこでの最大の議題は、新型コロナウイルスによる肺炎の流行が世界経済にもたらす悪影響についてであった。それ以外に、巨大米IT企業を念頭に置いた新しい国際的なデジタル課税のルールづくり、リブラなどデジタル通貨への対応も議題となった。いずれも、議論が深まらなかったとの印象である。

新型肺炎への対応については、「新型肺炎の拡大を含め、世界経済のリスク要因への監視を強化。さらなる行動を取る用意がある」、「経済のリスクに対処するため政策を総動員する」といった文言が声明文に盛り込まれた。しかし、具体性を欠くそうした文言に、実質的な意味はないだろう。

経済への対応は、各国にとって今は最優先課題ではない。より重要なのは、新型肺炎の拡大阻止に向けた各国の協調、連携である。このタイミングで財務相・中央銀行総裁の会議を開くよりも、各国の感染症対策の責任者、閣僚の臨時会合を開く方がより有益だっただろう。

そもそも、経済への悪影響は、新型肺炎そのものよりも、新型肺炎の拡大を防ぐために工場、企業を一時閉鎖し、また人の移動を制限するなどといった政策対応によって生じている側面が大きい。ただしそれらは、必要な措置である。

仮に実効性のある経済対策を現時点で検討するのであれば、そうした新型肺炎の拡大のための政策対応と調整しながら行う必要があるだろう。経済担当だけで経済政策を議論しても、あまり意味がない。

国際通貨基金(IMF)は今年の中国の成長率予想を、1月時点から0.4ポイント低い前年比5.6%に引き下げた。世界経済の成長率も、0.1%程度押し下げられると見込んだ。

中国の成長率は、1-3月に一時的に前期比でマイナス成長に陥るが、4~6月期には正常化するというのが見通しの前提だろう。仮にこの程度の減速で収まるのであれば、特別な経済対策は必要ではないだろうが、そうなるかどうかはまだ分からない。

ムニューシン米財務長官は、新型肺炎の蔓延が経済に与える影響を判断するのに「4週間程度かかる」と説明した。また、データ収集や分析に時間が必要なため、現時点での判断は時期尚早だと強調したという。4週間程度の根拠は不明である。

大統領選挙がデジタル課税の議論の障害に

経済のデジタル化に対応した国際的な法人課税ルールづくりについては、経済協力開発機構(OECD)を中心に約140カ国・地域がまとめた制度の大枠を交渉の土台として承認し、主要事項について7月までに合意のうえ、2020年末までの最終合意に向けて取り組む方針が、G20声明文に明記された。

しかし実際には、米国と欧州との間で対立する意見に、歩み寄りの兆候は見られなかったと見られる。新たなデジタル課税の方針の下では、米国の巨大IT企業がサービス提供国などにより多く税金を支払うことになるが、米国は、新制度を受け入れるかどうかは企業の選択に任せる、「セーフ・ハーバー(適用除外)」という新ルールを打ち出した。欧州はこれを、新制度を骨抜きにする案、と強く批判しているが、今回のG20では米国と欧州との間でこれに関わる議論は進まなかったようだ。

米企業の税金を海外により多く流出させ、また、米企業の競争力をそぎかねないこの国際ルールをそのまま受け入れると、トランプ政権にとっては大統領選挙の逆風にもなりかねない。少なくとも、議論を大統領選挙後に先送りしたいという狙いが、トランプ政権にはあるのではないか。

独自のデジタル法人課税の導入に動いたフランスと米国との間には対立が生じたが、フランスは年内の導入を見送ることで米国との対立を回避した。しかし、年内に合意できなければ、国内世論に配慮してフランスは導入に動く構えだ。スペインもそれに同調すると見られる。

その場合には、米国とフランス、米国とスペインとの間の制裁関税合戦につながり、さらにそれが米国とEUの間での貿易摩擦を激化させる可能性もあるだろう。これは、世界経済にとって新たなリスクとなる。

デジタル通貨の議論は進展せず

主にリブラを想定したものだが、法定通貨を裏付け資産にする「ステーブル・コイン」について、サービス開始前にリスク評価と適切な対処が必要、と今回のG20声明文には謳われた。昨年10月の前回G20から、この分野での議論は進んでいない印象である。

他方、リブラへの対抗を念頭に、既存の国際送金の利便性を高めることが議論されており、より安価で、迅速な国際間の資金移動を促進するため、G20は、主要国の金融当局をメンバーとする金融安定理事会(FSB)に、今年10月までに改善に向けた行程表を示すよう求めたという。

先進国の間では、リブラよりも中国が発行を準備している中銀デジタル通貨、デジタル人民元への警戒感の方が強まっているのではないか。しかし、中銀デジタル通貨の発行は国の主権に関わるものであり、またその狙いを中国は必ずしも明らかにしていないことから、G20の場で他国が中国を露骨に牽制することはできない。今後は、中銀デジタル通貨を共同で研究する、あるいは共通ルールを議論することを先進国は中国に呼び掛け、実質的にデジタル人民元を牽制していくという流れになるのかもしれない。

米国は、米国がドルの国際銀行送金に関わる情報を独占している現在の米国の金融覇権に風穴を開けかねない国際デジタル通貨については、全面的に慎重である。昨年末に米財務省は、向こう5年間は米国で中銀デジタル通貨発行の議論はしないことで米連邦準備制度理事会(FRB)と意見が一致している、と説明した。ただし、FRBは、中国あるいは他国に技術的に後れをとることを警戒して、中銀デジタル通貨の研究・調査を進める考えを示しており、米国当局内でも温度差が見られ始めている。

既に見たデジタル法人課税の議論でも、またこのデジタル通貨の議論でも、トランプ政権の米国第一主義の姿勢が、先進各国の足並みを乱している面があることは否めないだろう。11月の大統領選挙が近づく中、そうした傾向はさらに強まるかもしれない。

新型肺炎という新たな脅威に世界が直面する中、そうしたトランプ政権の姿勢こそが国際協調を阻む大きなリスクなのである。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ