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世界同時株安は終わりの始まりか?

2020/02/25

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足もとでの株価下落は健全な調整か

2月24日の米国市場で、ダウ平均株価は引け値で1,000ドルを超える大幅下落を記録した。同日の欧州、アジア市場でも株安傾向が目立ち、世界同時株安の様相となっている。

他方、同時に為替市場では円高傾向が生じている。これは、リスクオフ時の円高という経験則が、なお崩れていないことを改めて示したものと言える。円高の分、日本の株価には世界同時株安傾向以上の下落圧力がかかりやすい。実際、日経平均株価は、25日の寄り付き直後に千円を超える急落となった。

その背景には、前日の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で具体的な経済対策が打ち出されなかったことや、米大統領選挙戦で反企業的な左派のサンダース民主党候補が躍進していること、などが挙げられる。しかし、それよりも、世界規模で新型肺炎が拡大し、世界経済に下振れリスクが高まる中でも、米国株が今まで堅調を維持してきたことへの反動、行き過ぎた楽観論の調整、という側面が強いのではないか。

その意味では、足もとでの株価下落は健全な調整という側面があり、本格的な株価下落局面の始まりと、過度に悲観すべきではないかもしれない。いずれにせよ、新型肺炎が世界経済に与える悪影響については未だ明確ではない。

FRBが牽制する市場の「困った時のFRB頼み」

年初から新型肺炎の問題が広がる中でも、米国の株価が目立った調整を示してこなかった背景には、FRBの追加緩和期待、いわゆる「困った時のFRB頼み」の観測があった(当コラム、「新型肺炎でもFRB頼みの金融市場」、2020年2月5日)。

しかし、こうした市場の期待は、2つの意味で楽観的過ぎたのである。第1に、FRBは市場に期待に応える形で、安易に追加緩和を実施しない。第2に、新型肺炎の拡大で米国経済が顕著に減速する場合には、政策金利は既に低水準であることから、FRBの金融緩和でも経済をサポートできない可能性が高まる。

FRB高官らは、市場の「FRB頼み」の傾向を牽制し、現時点で追加緩和の必要がないことを、何度か市場に伝えてきた。さらに、銀行間金利の上昇への対応策として実施してきた保有資産の増加を打ち切る方針を示した。

頼みとしてきたFRBに突き放された、との市場の印象が、足もとでの株価調整のきっかけにあるのだろう。FRBとしては、市場の期待に応える形でFRBが金融政策を行うとの観測がひとたび市場で過度に強まると、それに反した政策を実施すれば、市場に大きな動揺を生じさせてしまう。それを恐れれば、FRBは市場の期待に沿った政策を実施せざるを得なくなり、その結果、「市場が政策を決める」状況に陥ってしまう。当然のことながら、市場が正しい金融政策を判断する訳ではない。

FRBが市場の術中にはまってしまう可能性も

この観点から、足もとの株価下落は、市場が過度にFRBに頼る不健全な状況の修正、いわば健全な調整という側面があることは否定できないだろう。

しかし、FRBは今回の調整を狙い通りと静観している訳ではないだろう。さらなる株価下落が、米国経済や金融市場の安定を損ねることを警戒し始めているはずだ。今後も株価の不安定な動きが続けば、FRBのパウエル議長は、追加緩和の可能性を匂わす、いわゆる市場へのリップサービスを行う可能性があるだろう。それこそが、金融市場が求めているものだ。この点から、株価下落はFRBから緩和の可能性という言葉を引き出すための「催促相場」とも言えるだろう。

こうして、FRBは市場の術中にはまってしまうのである。このように、中央銀行が市場との間で適切な距離感を持つことは難しい。

ちなみに、FRBが追加緩和の可能性を示唆する、あるいは実際に小幅に金融緩和を実施しても、それが日本銀行の追加緩和策に直結する訳ではない。日本銀行の追加緩和のきっかけとなるのは、FRBの緩和姿勢ではなく、1ドル100円に近付く、あるいはそれを上回る急速な円高進行である。

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