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新型肺炎を受けたイベント中止、消費自粛の日本経済への影響

2020/02/26

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イベント中止、消費自粛でも過去には景気回復は途切れなかった

新型肺炎の国内での広がりを受けて、各種イベントの延期、中止が相次いでいる。また、消費者の間では、感染を警戒して室内に多数が集まるような、いわゆるアミューズメント型消費を控える動きが出てきている。それらは、1989年1月の昭和天皇崩御前後、1995年1月の阪神大震災後、2011年3月の東日本大震災後に、一時、消費が控えられた動きと似ている面がある。

ただし、過去の経験則を踏まえると、こうした消費行動だけで、日本経済が本格的な景気後退に陥ると考えるのは、やや悲観的過ぎよう。上記の3つの出来事の後いずれも、日本経済の回復は途切れずに続いたのである。

個人消費の中には、住居費、電気代、水道代、光熱費、インターネット代のように、外出しなくても支出するものや、食料費のように欠かせない支出が占める比率は高い。

ちなみに、消費が自粛されると考えられる項目について、消費全体に占める比率をそれぞれみると、映画・演劇などの入場料は消費全体の0.18%(2018年家計調査)、スポーツ観戦は0.02%、ゴルフプレー料金は0.23%、スポーツクラブ使用料は0.07%、遊園地入場料・乗り物代は0.08%、文化施設入場料は0.07%である。こうしたアミューズメント関連消費全体が個人消費全体に占める比率は、0.93%と1%にも満たないのである。

東日本大震災後には消費自粛が確認

このように、新型肺炎の国内での広がりを受けて控えられるサービス消費は、個人消費全体の中ではそれほど大きな比重ではない。しかし、それらが落ち込む程度やその長さ次第では、経済全体に相応の影響を与えるだろう。

そこで、以下では、既に見た過去の3つの出来事の際に、アミューズメント関連を含むサービス消費が、どの程度の影響を受けたのかをGDP統計で確認してみたい。

昭和天皇崩御時の1989年1~2Qに、実質サービス消費はそれ以前1年間の増加率(トレンド)と比べて、年率換算で+3.7%上振れた。当時はバブル期で経済の勢いが強かったこともあり、消費抑制の影響は見られない。

阪神大震災時の1995年1~2Qには、実質サービス消費はそれ以前1年間の増加率(トレンド)と比べて、年率換算で+0.5%上振れた。この際にも、消費抑制の影響は明確には確認できない。

しかし、東日本大震災時の2011年1~2Qには、実質サービス消費はそれ以前1年間の増加率(トレンド)と比べて年率換算で-1.3%と下振れた。この際には、消費抑制の影響が見られたのである。

このように、時間を経るに従って、実質サービス消費の下振れ傾向がより明確になっているのは、個人消費の基調が弱くなっていることを反映している可能性もあるだろう。

そこで、この点も考慮して、仮にではあるが、新型肺炎を受けた今回の実質サービス消費の下振れは、2011年の東日本大震災時と同程度からその1.5倍のレンジ、と考えてみたい。それは、年率換算で-1.3%~-2.0%である。

2020年GDP(成長率)を-0.1%~-0.2%程度押し下げる

2018年度の実績では、サービス消費の構成比は個人消費全体の59.5%、GDP全体の32.2%である。そのため、年率換算で-1.3%~-2.0%の実質サービス消費の落ち込みは、GDPを年率換算で-0.4%~-0.6%押し下げることになる。

ただし、サービス消費を控える動きが1四半期程度で収まるのであれば、2020年GDP(成長率)への影響は、その4分の1程度の-0.1%~-0.2%程度となる。

他方、インバウンド需要の急速な落ち込みと中国経済の2%程度の落ち込みが、1四半期程度で収まるという現時点でのメインシナリオのもとでは、2020年の成長率はその2つの要因によって、合計で0.2%程度押し下げられる計算だ。

これに、サービス消費の抑制の影響が加わると、日本経済は本格的な景気後退の淵を彷徨うかのような状況が当面は続くものの、最終的にはなんとかそれを回避できる、というのが現時点での判断である。

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