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中国で起債ラッシュの新型コロナウイルス債とその課題

2020/03/09

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中国企業が好む新型コロナウイルス債

新型コロナウイルスの拡大を受けて、世界の金融市場は動揺を続けている。社債の発行は全体的に滞っており、企業の資金調達にも支障が生じている。ところがそうしたなか、発行が急増し、まさに起債ラッシュの状態の社債がある。それが、中国の「ウイルス予防・管理債」、通称「新型コロナウイルス債」だ。

新型コロナウイルスの感染ペースが加速していた2月初旬に、中国の金融当局は、打撃を受けた企業の社債発行を支援する方針を表明した。その後当局は、感染の中心地である湖北省の企業や感染で大きな打撃を被っている企業について、この新型コロナウイルス債の発行の承認を加速する考えを明らかにしたのである。また、全国規模の企業もその対象とした。発行を認める場合は、新型コロナウイルスの拡大抑制に貢献することが条件であり、調達資金の10%以上をその目的に振り向けることを義務付けた。

中国の華創証券がまとめた調査報告書によると、金融機関以外の発行体が2月に発行した人民元建て社債券の2~3割程度は、この新型コロナウイルス債が占めたという。

新型コロナウイルス債の発行による資金調達が、通常の社債発行よりも企業にとって魅力的なのは、第1に、手続きが簡素化されていることだ。上海清算所が2月5日に発表したところでは、新型コロナウイルス債を発行した第1陣の企業は、情報開示からわずか1日で資金調達を完了したという。

事実上の政府の補助金に

第2の魅力は、低金利での発行が可能なことである。表面利率は1.6%~6.0%程度だが、多くは2%~4%だという。これは、同じ発行体による債券の表面利率と比べてかなり低い。また、銀行借入の際に実質上の貸出基準金利とされる、ローンプライムレート(LPR)の1年物の水準4.15%と比べても低めだ。

新型コロナウイルス問題によって経済環境が急速に悪化し、信用リスクが高まるなかで発行される社債の利回りが、それ以前に発行されていた社債よりも低い、というのは理に合わないように感じるが、その背景には政府の影響力がある。

政府は、国有企業に対して、新型コロナウイルス債を積極的に購入するように働きかけている。これが、低利回りで社債が発行できる秘密である。国有企業に低利回りで社債を引き受けさせているということは、中国企業に対する事実上の「補助金」である。

ロイターの分析によると、同債の発行を通じて総額140億元(20億1,000万ドル)の資金が調達される見通しだが、実際にウイルスの予防・管理のために利用される資金は、全体の約3分の1にとどまる見通しだという。

制度が悪用されるリスク

また政府は、調達額の10%以上をウイルスの予防・管理にあてるよう求めているが、それは必ずしも守られていないようだ。ある大手ガラスメーカーは、同債を通じて調達した資金の大半を銀行債務の返済にあてる計画だ。またある不動産開発業者は、調達した資金の大半を現預金の積み増しと債務返済にあてる予定だ。

政府系の中国証券報は2月13日に、当局は新型コロナウイルス債の監視を強化し、一部の企業による「火事場泥棒」を防ぐべきだと主張した。

中国では企業債務と銀行の不良債権の拡大を抑える構造改革が政府によって推し進められてきたが、新型コロナウイルス債の発行によって、そうした構造改革が骨抜きになってしまっては困る。それは、将来の中国経済のリスクを高めてしまう。

新型コロナウイルスの拡大のもと、現在はいわば非常時にあたることから、例外的な政府の対応も正当化されようが、そうした制度が悪用され、また不必要に長期間適用されれば、将来に大きな禍根を残してしまう。制度の監視強化とともに、適切な解除のタイミングを当局は常に見計らっておくことが求められる。この点は、中国に限らず、他の国の新型コロナウイルス対策についても同様だ。

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