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金融市場は危機モードを強める

2020/03/09

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週明けの東京市場は円高進行など混乱

週初3月9日(月)の東京市場は、まさに波乱の幕開けとなった。新型コロナウイルスの世界的な蔓延だけがその原因ではない。

2019年10-12月国内実質GDP・2次速報値は前期比年率-7.1%と、1次速報値の同-6.3%からさらに下方修正となった。また、OPEC(石油輸出国機構)と非OPEC主要国で構成する「OPECプラス」が、サウジアラビアとロシアとの対立から減産合意に失敗したことを受けて、原油価格は一時30%以上急落した。湾岸戦争以来の下落幅だ。一方、同日には北朝鮮から弾道ミサイルとみられる飛翔体が発射された。北朝鮮によるミサイル発射は、今年に入って2回目である。

日本市場では、円が一時103円台半ばと3年4か月ぶりの円高水準に達している。また、日本国債10年利回りは-0.2%程度まで低下し、日本銀行の目標値の下限に達した。さらに、日経平均株価の下落幅は、寄り付き直後に1,000円近く急落し、2万円の水準を割り込んだ。

米国10年国債利回りは過去150年間見られなかった低水準

日本市場での円高、株高及び債券利回りの大幅低下といった傾向を増幅しているのが、米国での国債利回りの低下だ。米国10年国債利回りは0.5%程度まで低下し、米国30年国債利回りは一時1.0%を割り込んだ。

先週3月3日の米連邦準備制度理事会(FRB)による緊急利下げ直後は、それぞれ1.0%、1.5%程度の水準であったことから、わずか1週間足らずのうちに、それぞれ0.5%ポイントもの大幅低下が生じたのである。

こうした市場の動きは、もはや新型コロナウイル拡大による景気悪化懸念だけでは説明できないだろう。安全資産に資金が逃避する急激なリスク回避モード、あるいは危機モードに金融市場が入ったことを意味するのではないか。

米国の10年国債利回りは、過去150年程度の間は、1.0%の水準を下回ったことがなかった。この点を踏まえると、足もとでの0.5%程度が、いかに異例な歴史的低水準であるか分かる。

既に市場は向こう数か月のうちに米国での政策金利(FF金利の誘導目標)が0%近傍まで引き下げられると予想している。政策金利がその低水準から相当長い期間脱することができなくなる、との観測がなければ、このように低水準の10年国債利回りにはならないはずだ。

米国は「日本化」へ

さらなる政策金利の引き下げは、景気を刺激するどころか、金融機関の収益環境を悪化させること等を通じて逆に米国経済の潜在力を損ない、その結果、経済の低迷とゼロ金利状態が常態化してしまう、との観測が市場に織り込まれているのではないか。これはまさに日本銀行、あるいは日本経済が過去に辿った道なのであり、この点から米国は「日本化」しつつあると言えるのではないか。

また、米国の国債利回りが急速に低下している背景には、FRBの利下げ観測に加えて、安全資産である国債への資金逃避、という傾向も反映されている。これは、同様に安全資産とされる金価格が急騰していることにも表れている。金融市場が警戒しているのは、新型コロナウイルス拡大による景気悪化懸念にとどまらず、それを引き金に、長らく過度の楽観論に支えられてきた金融市場の歪みの調整が一気に起こることへの強い警戒なのではないか。

世界経済自体には大きな不均衡はないが、債券市場を中心に大きな不均衡が形成されており、これが一気に調整すれば、金融市場の混乱、金融機関の経営不安などを通じて経済にも非常に大きな打撃となるだろう。この点から、当面は、債券市場のスプレッドの動きをとりわけ注視しておく必要がある。

日本銀行の追加緩和手段は政策金利の引下げ

さて、このように世界の金融市場が危機モードを強め、また日本銀行が懸念してきた円高の急進行が生じていることから、日本銀行が追加緩和の実施に追い込まれる可能性は、相応に高まってきたのではないか。3月18・19日の次回決定会合、あるいは、金融市場の混乱の程度によっては、それ以前の緊急会合で金融緩和が実施される可能性があるだろう。また、日米欧の国際協調緩和となる可能性もあり得るのではないか。

日本銀行が追加緩和を実施する際には、政策金利を-0.1%から-0.2%へと引き下げることが予想される。同時にETFの買入れ目標額を現行の年率6兆円から、年率8~9兆円へと引き上げる措置も、同時に実施される可能性がある。

政策金利のさらなる引き下げは、金融機関の収益環境を一段と悪化させ、金融仲介機能を損ねることで、経済にはむしろ悪影響となろう。つまり、効果よりも副作用の方が大きいと考えられ、筆者はその実施に反対ではあるが、日本銀行が実施を決める可能性は十分にあるだろう。

いずれはイールドカーブコントロール撤回の可能性も

現時点では、日本銀行は1回の追加緩和で済ませたいと考えていると思われるが、金融市場で危機モードが続けば、いずれさらなる追加策の検討を迫られよう。その場合に選択肢となってくるのは、米国長期金利の大幅低下によって10年国債利回りの下限の維持が難しくなっている「イールドカーブコントロール」という政策を撤回して、政策目標を再び長期国債の買入れ額、マネタリーベースに設定するという、政策の枠組みの大転換ではないか。その場合、日本銀行は再びバランスシートの拡大ペースを顕著に高めることになる。

こうしたバランスシートの拡大策についても、効果よりも副作用の方が大きいと考えられることから、筆者はその実施には反対である。また、それは、2016年9月以降の国債買入れペースの削減という事実上の正常化策を台無しにしてしまうことにもなる。

しかし、日本銀行は、政策金利のマイナス幅を一段と拡大させていく政策よりも、バランスシート拡大ペースの再加速策を選ぶのではないか。

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