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欧米株暴落:逃げ場を失うリスクマネー

2020/03/10

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欧米株は暴落

9日の米国株式市場で、ダウ平均株価は2,000ドルを超える下落となった。これは、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後で最大の下落幅である。ニューヨーク証券取引所は、寄り付き直後に株価が大きく低下し、一時、取引が停止された。欧州でも株価は大幅に下落し、幾つかの主要株価指数は高値から20%を超える下落幅にまで達し、本格的な調整局面に入った。

米国株の先物価格は、既に9日のアジア市場で大きく下落していた。そのきっかけの一つとなったのは、原油価格の急落だ。これが、エネルギー関連企業の信用リスクを強く意識させるものとなった。9日の米国市場では、社債の信用リスクを映すCDS(クレディット・デリバティブ・スワップ)が異例の急上昇を示しており、事態は信用危機の様相を示し始めている。

リスク回避で急低下する米国長期国債利回り

9日のアジア市場で最も注目された動きは、米国10年国債利回りが、一時0.3%台まで急落したことだ。3日の米連邦準備制度理事会(FRB)の緊急利下げ直後に同利回りは1.0%を割り込んだが、その時点から1週間足らずのうちにここまで低下したのは、実に驚くべきことだ。

米国10年国債利回りの急低下には、FRBが向こう数か月のうちに政策金利をゼロ近傍まで引下げるという観測が強まると同時に、株式などリスク資産から安全資産へと一気に資金が移る、リスク回避傾向が強まったことが背景にある。

FRBが日本や欧州諸国のように政策金利をマイナスの領域まで引き下げることができるかどうか、法的に不確実だ。政策金利がマイナスの領域に入らないのであれば、米国10年国債利回りで0.3%台はほぼ下限なのではないか。

近年のドル円レートは、日米長期利回り格差で決まる側面が強いことから、米国の長期国債利回りが下げ止まることによって、目先はさらなる円高進行のリスクが軽減される面がある。

逃げ場を失うリスク資産

しかし、米国国債市場は、株式や社債などリスク資産にとって、リスク回避局面での資金逃避先として重要な受け皿なのであり、さらにリスク資産の価格下落を和らげるバッファーの役割を果たしていると考えられる。リスク資産から国債市場へと資金が移動し、国債利回りが低下すれば、それがリスク資産の価格のバリュエーションを改善させて、価格下落リスクを軽減させる面があるからだ。

国債利回りに低下余地がなくなってしまえば、株式、社債などのリスク資産は逃げ場を失う形となり、その価格の下落リスクはさらに高まってしまう。9日の米国での株価暴落には、そうした兆しが既に見られている。米国でも日欧と同様に10年国債利回りがゼロ近くまで低下し、株式などリスク資産の価格下落を和らげるバッファーが失われてしまったのである。金市場は逃避先になり得るが、米国債市場と比べればその規模は小さく、受け皿としての機能は限られる。

資金の逃げ場としての円資産

米国の長期国債利回りが下げ止まることによって、さらなる円高進行のリスクが軽減される面がある一方で、逃げ場を失ったリスクマネーが、リスク回避の目的で安全資産とされる円資産へとさらに流入する可能性がある。それは、円高進行のリスクを高めてしまうだろう。

同時に、日本の長期国債利回りが一段と低下する形で、日米長期利回り格差は縮小するのだろう。それは、10年利回りを目標とする日本銀行のイールドカーブ・コントロールという枠組みを維持することを難しくさせる。

こうした環境のもとでは、仮に日米欧が協調利下げを実施しても、もはや株式、債券、為替市場の安定を回復するのは難しいのではないか。各国中央銀行も、利下げだけで事態を安定化させることは、もはや難しいと感じているのではないか。中央銀行が利下げと並行して資産買入れの拡大を実施することも、考えられるところだ。

さらに、いずれは、中央銀行がリスク資産を買い入れることで、自らリスクマネーを引き受けることも検討されるのではないか。日本銀行の場合には、これはETFの買入れ増額となろうが、米国でも従来のルールを変えて、FRBが資産買入れの対象を社債などのリスク資産に拡大することを検討する、とのメッセージを市場に送る可能性なども出てくるのではないか。

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