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ECBは利下げに踏み切るか:日銀政策の試金石にも

2020/03/11

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銀行に対する低利資金供給策の拡充はほぼ確定

欧州中央銀行(ECB)は3月12日に定例の理事会を開き、当面の金融政策を決める。3月3日に米連邦準備制度理事会(FRB)は0.5%の緊急利下げを実施した。ECBも何らかの金融緩和措置を実施することは、ほぼ確実だろう。

ECB理事会はドラギ前総裁のもと、金融緩和を巡って大きく意見が割れ、対立の構図が強まってしまった。ラガルド総裁は、物価目標の見直し、金融政策決定の手続きに関する制度の見直しなどを時間をかけて議論する中で、理事会内での融和を図り、同時に自らのリーダーシップを確立することを目論んでいたことだろう。しかし、もはやそうした猶予はなくなってしまった。ラガルド総裁は就任から4か月で、早くも正念場を迎えているのだ。

ラガルド総裁は2日に出した声明の中で、ECBが銀行に対する低利資金供給策の拡充に取り組んでいることを示唆した。これを踏まえれば、銀行が企業への貸し出しを維持するよう促すことを狙う「TLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)」の拡充が今回の理事会で決まる可能性は高い。単に量的な拡大にとどまらず、新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業への銀行融資をピンポイントで促す措置が新たに導入されるのではないか。

米国でも新型コロナウイルス対策

TLTROの拡充策と比べれば、理事会内でドイツなどの反対があり実施に向けたハードルがより高いものの、政策金利の引下げ策と比べればややハードルが低い第2の選択肢が、資産買入れ策の拡大だ。現在、月200億ユーロ(約2.4兆円)のペースで実施している国債などの買い取りを、300億~400億ユーロ程度へと引き上げる可能性がある。ドイツなどの慎重姿勢は変わらないと見られるが、世界の金融市場が混乱する中、危機対応の流動性供給策としての側面から支持され、実施される可能性はあり得る。

さらに、社債市場での信用リスクの上昇が顕著になってきたことから、社債買入れの増額を決める可能性もあるだろう。

そして、ラガルド総裁が最も難しい判断を迫られるのが、政策金利の引下げだ。これについては、銀行の収益を悪化させる一方、景気浮揚効果は小さいとの慎重論が足もとで強まっている。さらに、ラガルド総裁が政策金利の引下げを強行した場合、理事会内での対立を一層強めてしまい、今後の政策運営に大きな障害となってしまう、という側面も考慮に入れなければならない。今回は政策金利の引下げ決定を見送り、新型コロナウイルスによる経済の悪化を経済指標で確認した上で、慎重派を説得していく、という選択肢もラガルド総裁にはあるだろう。

他方、金融市場は既に、ECBによる政策金利の0.1%程度の引き下げを相当分織り込んでいる。その実施を見送れば、市場を混乱させてしまうリスクがあるだろう。ECBがこの点を重視するのであれば、政策金利の引下げが実施されることになろう。

現状では、第1のTLTRO拡充策が実施される確率は90%程度、第2の資産買入れの策の拡大が実施される可能性は60%程度、第3の政策金利の引下げが実施される可能性は45%程度と見ておきたい。もちろん、これらの施策が組み合わされる可能性は十分に考えられるところだ。

金融緩和の効果に懐疑的な見方が広がる

ところで、ECBが政策金利の引下げを実施するかどうかは、3月18・19日の政策決定会合で日本銀行が政策金利の引下げを実施する可能性にも、相応の影響を与えるはずである。日本銀行の政策決定は今後の金融市場の動向に大きく左右されるが、ECBが政策金利の引下げを見送れば、日本銀行も見送る可能性は高まるだろう。

他方、ECBが政策金利の引下げの実施を決めても、日本銀行がそれに追随するとは限らないが、多少なりともその可能性を高めることになるのではないか。その観点から、ECBの政策決定は、日本銀行の政策決定を占う際の重要な試金石となろう。

3日のFRBの緊急利下げ以降、金融緩和の効果について懐疑的な見方が世界的に広がっているように見うけられる。金融緩和よりも財政政策により期待する機運が強まっているのではないか。

こうしたもと、政策金利の引下げを実施しても市場あるいは人々から評価されず、数少ない政策手段を無駄に使ってしまうのではとの見方も、中央銀行の間では浮上してきているだろう。こうした点は、ECB、日本銀行ともに、政策金利の引下げ実施を慎重にさせる方向に働こう。

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