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大型景気対策が問題を解決するのか

2020/03/12

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期待は金融緩和から財政出動へ

新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化への懸念や金融市場の動揺を受けて、国内では政府の財政出動による大規模景気対策の実施を求める声が高まってきた。米国においても、トランプ大統領が給与減税あるいは時限的な給与税免除を検討するなど、新型コロナウイルスの感染拡大抑止の施策に加えて、財政による景気刺激策を検討する動きが広がってきた。

3月3日の米連邦準備制度理事会(FRB)の緊急利下げが、むしろ金融市場の動揺を増幅してしまったことから、金融市場では金融緩和策の限界がより意識され始めている。他方で、10日の金融市場では、米国での景気刺激策への期待から株価が一時大幅に上昇するなど、財政出動への期待が強まっている。

このように金融緩和から財政出動へと、金融市場あるいは人々の期待が移っていることは、中央銀行にとっては好ましい傾向だろう。多くの中央銀行が、金融緩和の限界を意識しているためだ。

金融緩和を実施しても、金融市場や国民の間で評価されず、いわゆる無駄弾となってしまう可能性がある。足もとではこのことが、日本銀行を含め、各中央銀行に追加緩和の実施を慎重にさせる要因となっているのではないか。

国内では補正予算編成の議論が高まる方向

他方、財政政策にも限界はある。財政環境が既に悪化している国では、国債の新規発行で賄う財政出動では、やや長い目で見ればその効果は発揮されにくい。その代表的な国は、当然のことながら日本である。

11日には、自民党の有志議員(衆参41人)が政府に景気対策を提言した。提言の柱は2つだ。第1に、2020年度予算が間もなく成立するが、30兆円の補正予算編成を実施する。躊躇なく新規国債発行を行い、その財源にあてる。第2に、今年6月の実施を目指して消費税の軽減税率を0%とし、それを全品目に適用する措置、つまり消費税率を一律0%とする措置を当分の間続ける。

いずれも驚くような内容の提言である。その実現可能性を重視するよりも、世の中の目を引くことを狙っているのだろう。仮にこうした政策を新規国債発行で賄うとすれば、平年度ベースで52兆円程度の新規国債発行増加が必要となる。これは2020年度当初予算の新規国債発行額32.6兆円を、2.6倍程度の水準にまで拡大させることになる。

こうした提言は現実味を欠くものの、今後減税措置あるいは2020年度補正予算の議論はさらに高まっていくだろう。麻生財務相も、「景気対策としての減税には反対するつもりはない」と明言している。

新型ウイルス対策こそが最良の景気対策

しかし、昨年には事業総額26兆円、真水の財政支出で10兆円弱の大型経済対策が決定されている。2019年度補正予算に加えて、2020年度の当初予算の中にも、これは既に盛り込まれているのである。これ以上、追加対策を積み上げても、効果は挙げられないのではないか。

特に景気を直接刺激することを狙うインフラ投資については、建設業者の受注水準は既に相当高く、追加で政府が発注しても受注が積み上がるばかりで、追加的な景気刺激効果は出てこない。いわゆる深刻なボトルネックの状態にあるのだ。

また、12日付けの日本経済新聞は、政府が4月に緊急経済対策をまとめる検討に入ったと報じている。その中には、国民一人当たりに一定額を給付する定額給付金が含まれるという。こうした施策はバラマキであり、国民受けはするとしても、政策の狙いは明確ではない。また、こうした一時金は、通常の経常的な所得と比べて貯蓄に回る割合が高くなるが、新型コロナウイルスの影響で先行きの生活への強い不安がある中では、その割合はさらに高まろう。仮にリーマンショック後のように一人当たり1万2千円、全体で2兆円規模の現金を給付するとしても、経済を支える効果は限られるだろう。

このように、ひとたび緊急経済対策の議論が政府内で浮上するとそれに乗じて、さらに施策の上乗せを求める声が高まり、結果的に大型の補正予算編成へとつながってしまうのではないか。

1日でも早い新型ウイルスの封じ込めこそが最良の景気対策

そもそも、経済活動を悪化させている最大の原因は、新型ウイルスの拡大抑制のために政府が実施している入国規制やイベント自粛要請などの施策だ。景気悪化はこうした施策によってもたらされている、いわば「官製不況」という性格が強いことは否めない。当然のことながら、新型コロナウイルスの拡大を抑制し、国民の健康と生命を守るためには、こうした施策は必要である。

1日でも早く新型ウイルスの封じ込めに成功し、そのうえで入国規制やイベント自粛要請などの施策を解除していき、国民の不安を解消することこそが、経済の正常化のために最も重要だ。それこそが最良な景気対策でもある。

大型経済対策で数字を積み上げるのは的外れだろう。そうではなく、新型ウイルスの拡大阻止にとって必要となる予算措置を、最も有効な形でポイントを絞って実施することが重要だ。

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