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株価暴落と収縮する世界経済

2020/03/13

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株価暴落を受けて日米当局は流動性供給を拡大

12日の米国株式市場で、ダウ平均株価は2,300ドルを超える過去最大の下落幅を記録し、下落率はほぼ10%と1987年のブラックマンデー以来の水準にまで達した。欧州市場でも、主要株価は揃って10%を超える下落となった。

株式市場の不安定な動きが続いているが、この日の欧米市場での株価下落の直接的な引き金となったのは、米国時間11日にトランプ大統領が発表した新型コロナウイルス対策に対する市場の失望及び不安だ。

株価の大幅下落を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は、1か月と3か月物レポでそれぞれ5,000億ドルを金融市場に供給する流動性供給策を実施した。それとともに、以前から流動性供給の目的で実施している月額600億ドルの財務省短期証券(TB)買入れプログラムで、買入れ対象を長期の財務省証券にまで広げる措置を発表した。

後者については、金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)での決定ではないことから、形式的には金融政策の変更ではなく、オペレーション上のルール変更となるが、実質的には資産買入れ策の再開という金融緩和措置に近いものと言えるだろう。

13日の日本市場でも株価は大幅に続落している。日本銀行は同日午前に、国債現先オペによる資金供給5,000億円を通知した。このオペは先週に2回実施されたが、これで2週連続となる。

米国の新型コロナウイルス対策が市場に二重の打撃

米国時間11日にトランプ大統領が発表した新型コロナウイルス対策では、金融市場が事前に期待していた具体的な大型景気対策の発表がなされなかったことが、市場の失望を誘った。それは、株価暴落に動揺したトランプ大統領が、それへの対応策として、事前に、経済対策について市場に過度の期待を持たせてしまった結果であり、市場とのコミュニケーションの失敗と言えるだろう(当コラム「市場の失望を招いたトランプ大統領の新型コロナ対策」、2020年3月12日)。

加えて、金融市場は、新型コロナウイルス対策としてトランプ大統領が発表した、EU(欧州連合)と重なる欧州諸国からの入国の大幅制限策が、経済活動に悪影響を与えるとの懸念も高めたのである。

トランプ政権は2月に中国からの入国制限を実施したが、それと比べても、今回の欧州からの入国制限は、米国経済に与える影響は大きいだろう。中国からの入国制限は主に観光客の減少を通じて米国経済に打撃となるが、欧州からの入国制限の場合には、観光客の減少に加えて米国の企業活動にも甚大な影響を与える。打撃は、航空会社や観光関連の分野に限らない。欧州に進出する米企業、米国に進出する欧州企業は多い。そうした企業のオペレーションに大きな障害となりえる。

新型コロナウイルスの封じ込めの成否は、再選を目指すトランプ大統領にとってはまさに死活問題である。それが上手くいかない場合、トランプ大統領はその責任を中国、そして欧州に負わせる狙いが垣間見られる。

米国とEUの関係悪化は世界経済のリスクに

トランプ大統領は、中国からの入国制限措置が、新型コロナウイルスが米国内で蔓延するのを遅らせたと、自賛している。他方で、欧州地域では中国からの入国規制をしっかりやってこなかったため、欧州からの米国への観光客を通じて、米国内での新型コロナウイルスの感染が足もとで拡大してしまった、と欧州を批判している。こうしたトランプ大統領の認識が、今回の措置の背景にはある。

そればかりでなく、新型コロナウイルス問題が発生する前から、EUと米国との関係は明確に悪化していた。両国間では自動車と農産物を巡る貿易摩擦、デジタル課税を巡る米国とフランスなどとの対立、5Gでのファーウエイ製品の利用に関する米国とEUとの対立などがある。

この点から、今回の措置には、トランプ大統領のEUに対する制裁、報復的な要素もあるのではないか。トランプ大統領は、当初は欧州からの輸入品も制限の対象になると説明し、それを誤りとして後に撤回したが、これはトランプ大統領に、今回の措置にはEUに対する制裁、報復との意味合いがある、との認識が潜んでいたからかもしれない。

こうしたトランプ大統領の意図を知ってか、EUのフォンデアライエン欧州委員長は、「(事前)協議なく一方的にとられた(米国)決定にEUは賛成しない」と、米国の決定を強く批判した。今後は、EUも、報復の意味合いも含めて米国からの入国制限を実施する可能性があるかもしれない。

こうしてEUと米国との間での対立が高まるもとで、両国・地域で経済環境が悪化した場合には、保護主義的な傾向が強まることも考えられる。それは貿易面での規制であり、また悪くすると追加関税の応酬に繋がる可能性もあるのではないか。

仮に、世界最大の経済圏である米国とEUの間で、ヒトの移動に加えて、モノの移動、そしてカネの移動にも制限が生じるようになれば、それは世界経済を収縮させてしまうだろう。

コロナウイルスの感染が世界に広がる中、米国とEUは協調してその対策にあたることが強く期待されている。そうしたなかで、両国間での軋轢が生じていることは、先行きの世界経済の見通しを一層暗くしてしまう面もある。足もとでの株価暴落は、市場がこうしたリスクを意識している、そういう側面があるのではないか。

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