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FRBの緊急利下げ第2弾と日銀緊急決定会合

2020/03/16

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FRBは緊急利下げ第2弾と資産買い入れ策再開

米連邦準備制度理事会(FRB)は米国時間15日(日)、政策金利(フェデラル金利の誘導目標)を1%引き下げる緊急利下げを実施した。この結果、政策金利はリーマンショック(グローバル金融危機)後と同様の実質ゼロ(フェデラル金利の誘導目標は0%~0.25%)まで引き下げられた。

さらに、FRBは財務省証券などの債券を少なくとも7,000億ドル買い増す、いわゆる資産買い入れ策の再開も併せて発表した。これ以外には、準備預金率を0%に引き下げ、また民間銀行への貸出制度の拡充策も決めた。

こうしたFRBの措置と同時に、日本銀行、FRB、欧州中央銀行(ECB)を含む主要中央銀行は、米ドル・スワップ取り極めの拡充策を決め、各国での民間銀行によるドル資金調達を強く支援する姿勢を打ち出した。

強まる中央銀行の危機対応モード

今回のFRBの決定は、世界の金融政策にとって、以下の3つの点を示唆していよう。第1に、世界の中央銀行は金融危機回避のために、危機対応モードを一段と強化した。第2に、世界の中央銀行は、FRBの政策に強く依存する形となった。第3に、各国での金融政策の中心は「金利」から「量」に明確に移ってきた。

今回のFRBの決定より前に、米国金融市場では、既に向こう数か月のうちに政策金利はほぼゼロまで引き下げられることが完全に織り込まれていた。こうした中、今後段階的に政策金利を引き下げていっても、市場の失望を招くだけであった。

3月3日にFRBが実施した緊急利下げは、予想外に市場に悪い反応をもたらしてしまった。今回のFRBの緊急利下げ第2弾でも同様のことが起こるリスクをFRBは意識していただろう。そのこともあり、緊急利下げ以外の資産買い入れ策再開等も組み合わせて発表したのである。

FRBとしては、これで金利政策としての手を使い果たすと同時に、政策の軸を「金利」から「量」に移したといえる。

リーマンショック後のスタート時点に戻る

FRBは向こう数か月、財務省証券を少なくとも5,000億ドル、モーゲージ担保証券(RMBS)を少なくとも2,000億ドル、合計で少なくとも7,000億ドル買い増す(保有残高を増加させる)資産買い入れ策の導入(LSAP)を決めた。

FRBは、2008年のリーマンショック後に実質ゼロ金利政策を決めたのち、同11月には、債券を6,000億ドル買い入れる措置を発表した。今回のFRBの政策は、リーマンショック後の政策のスタート時点に戻った感がある。当面は、FRBは債券買い入れ措置を延長あるいは拡充するだろうが、リーマンショック後と同じ対応では、もはや市場安定に十分な効果を上げられない可能性がある。

そこで、FRBは次の手を検討しているだろう。本格的なグローバル金融危機を回避するためには、社債市場(クレジット市場)などのクラッシュを防ぐ必要がある。そこでFRBは、機能不全に陥りつつある社債市場からリスクを取り除く目的で、社債の買い取りなどを検討する可能性があるだろう。これには現状のルールの見直しが必要となる。

法的にハードルが高い米国でのマイナス金利政策の導入検討は、その後になるだろう。

世界のドル調達を支援

足もとの世界の金融市場で、多くの人の目についたのは株価暴落だ。しかし、金融危機発生のリスクを考えるうえで、より心配な動きは、社債市場の混乱とドル調達の困難化の兆し、の2点である。

後者のドル調達の困難化は、リーマンショック後に顕著となった。銀行のドル調達に支障が生じると、例えば輸入業者がドル建てでの代金支払いが滞ることを恐れて、輸入を一時見合わせる動きを示す。その結果、原材料などの輸入が滞ることで生産活動に甚大な影響が生じた。そうした傾向が最も顕著であったのは、日本である。リーマンショックから10年以上経過しても、日本での輸入品のドル建て契約比率は高いままである一方、邦銀の安定的なドル資金調達体制の確立はまだ道半ばである。

こうした事態に対応するため、今回は、各中央銀行がスワップ協定の下でFRBからドル資金を手当てする際の金利が引き下げられた。また、従来1週間であったスワップ協定の下でFRBによるドル資金供給により長期の3か月物が加わり、ドル資金調達に支障が生じた各国の銀行が、より低利で長期のドルが手当てできるようにしたのである。

日本銀行も緊急決定会合開催

日本銀行は、本日(日本時間3月16日)に緊急の金融政策決定会合を開催することを決めた。先週末の段階では、日本銀行は政策金利引き下げなど明確な金融緩和措置の実施は見送る考えであったと思われる。しかし、FRBの今回の決定を受けて、国際協調の観点も踏まえて、金融緩和措置の実施を検討しよう。緊急会合を開くからには、金融緩和措置の実施の見送りはもはや考えにくい。

現行6兆円から9兆円などへのETFの買い入れ目標の引き上げ、あるいはそれと0.1%の政策金利引き下げが決定されるのではないか。既に見たように、各国の中央銀行の政策の潮流は、「金利」から「量」へ、そして証券市場からリスクをとるリスク資産の買い入れ措置へと動いている。日本銀行のETF買い入れ拡大は、まさにこの流れの上にある。

また、日本銀行が今回政策金利を引き下げるとしても、その次の施策は、さらなる金利の引き下げではなく、資産買い入れの拡大、つまり「金利」から「量」へのシフトであろう。

将来的には、現行のイールドカーブ・コントロールを放棄して、長期国債、マネタリーベースに再び目標を持ち、長期国債の買い入れを拡大させていく可能性がある。流動性を大量に供給するには、国債の買い入れの拡大が必要、との判断も背景にあるだろう。

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