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中央銀行の金融緩和は金融危機を回避し時間を買う政策

2020/03/17

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金融緩和策の狙いは金融危機の回避

米連邦準備制度理事会(FRB)を中心に、世界の中央銀行は流動性の大量供給と政策金利の引下げ等からなる異例の積極的な金融緩和措置を実施している。しかし、金融市場の不安定な動きはなお解消されておらず、金融市場はこの金融緩和措置を十分には評価していないように見える。

ここには、金融政策の役割を巡り、中央銀行と金融市場との間に大きな認識ギャップがあるのではないか。極言すれば、異例の積極的な金融緩和措置は景気浮揚効果を狙っているものではない。それは、金融市場・金融システムの安定回復と金融危機の回避を主に狙っているものではないか。金融市場の安定回復と金融危機の回避のために中央銀行が実施するのは、大量の資金供給策がいわば定石である。

金融市場は、異例の積極的な金融緩和措置を、景気浮揚効果が十分に発揮されないという理由から十分に評価していない。金融緩和策にもはや強い景気浮揚効果が期待できない、という認識は正しいだろう。しかし中央銀行は、強い景気浮揚効果を発揮することはできなくても、流動性の供給、リスク資産の買入れなどを通じて、金融市場・金融システムの安定維持に影響を与える力は残されているはずだ。

リーマンショック後と同様の危機対応に

仮に金融危機が生じれば、実体経済は著しく悪化してしまう。従って、中央銀行が流動性の供給などを通じて金融市場・金融システムの安定回復に努め、金融危機の発生を防ぐことは、間接的ながらも重要な経済対策となる。

中央銀行は、政策に対する金融市場の短期的な反応に一喜一憂することなく、金融市場・金融システムの安定維持という目的のために、必要な措置を講じて欲しいところだ。

足もとの金融市場の混乱や世界経済の悪化懸念を受けて、2008年のリーマンショックの再来を懸念する向きも出ている。15日にFRBは、政策金利(フェデラルファンズ金利の誘導目標)を1%引き下げる緊急利下げを実施した。この結果、政策金利は実質ゼロにまで引き下げられた。さらに、FRBは財務省証券などの債券を少なくとも7,000億ドル買い増す、いわゆる資産買い入れ策の再開も併せて発表した。この政策のパッケージは、リーマンショック(グローバル金融危機)発生直後の2008年11月にFRBが打ち出した政策そのものだ。

異なるのは、当時は既に発生した金融危機への危機対応であったのに対して、今回は、金融危機回避のための危機対応であることだ。新型コロナウイルス問題によって生じる世界経済への短期的な悪影響は、既に、リーマンショック発生直後の状況に匹敵すると言えるのではないか。リーマンショックを受けて世界経済は急速に悪化したが、重要なのは、欧米を中心に生産性上昇率、潜在成長率など経済の潜在力が低下するという構造変化が生じてしまったことだ。さらに、これと関係するが、長きにわたって景気の回復力も弱かったのである。

これに対して、足もとの経済の悪化は新型コロナウイルス問題によって生じたものであり、その問題が解消されていけば、比較的に迅速に経済は元の状態に戻ることが期待される。

金融緩和は「時間を買う」政策

しかし、一時的な経済の悪化でも、それが金融危機の引き金を引いてしまえば、リーマンショック時以上の短期的な経済の落ち込みと、経済潜在力の一段の低下という構造変化が再び引き起こされてしまう可能性がある。長期にわたった超低金利環境のもと、現在は、金融不均衡が相応に蓄積されている状況と考えられる。その結果、金融危機が引き起こされるリスクは十分にあるのではないか。

この点から、金融危機回避に向けて中央銀行が果たすことができる役割は引き続き大きいだろう。

他方、現在の経済の悪化は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために各国政府が進める入国制限や消費活動の自粛要請などの政策によって引き起こされている面が大きい。この点から、最も有効な景気対策は、一日でも早く新型コロナウイルスの感染を封じ込め、こうした政策を解除していくことだ。これに勝る景気対策はない。

各国政府は、ワクチン及び治療薬の早期開発、医療及び検査体制の拡充を強い国際協調の枠組みの下で進めていくことが求められる。中央銀行の金融緩和策は、こうした政府の政策が奏功して景気情勢が改善してくるまで、金融市場・金融システムの安定を維持し、金融危機の発生を回避することに最大限努める、いわば「時間を買う」政策なのである。

日本では安倍首相が、自民党に経済対策の策定を指示したと報じられている。現在最も優先度が高い政策は、一日でも早く新型コロナウイルスを封じ込めるために必要な分野に、ピンポイントに資源を投入することだ。さらに、新型コロナウイルスで大きな打撃を受けた人や企業が、生活や経営の基盤を失ってしまうことがないように支援する、セーフティー・ネットの強化も欠かせないだろう。

他方、すべての人あるいは企業を対象にするような、減税、給付金などといった大型景気対策を検討するのは、もう少し先のステージではないか。

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