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新型コロナウイルスが試す国際協調

2020/03/19

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各国はウイルス封じ込めに資源を集中すべき

各国では、大規模の景気刺激策を含む新型コロナウイルス対策が、次々に進められている。ただし、各国での経済の悪化やそれを映した金融市場の混乱は、新型コロナウイルス対策として各国政府が打ち出している、入国規制、外出自粛要請、イベント自粛要請などといった各種規制措置によって引き起こされている面が大きい。それは、いわば官製不況である。

そこで、一日でも早く新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込み、こうした規制措置を解除できる環境を取り戻すことこそが、最も有効な経済対策となる。いくら巨額の経済対策を実施しても、新型コロナウイルスの感染拡大が続く限り、それらは経済環境改善の決定打とはならず、追加措置を繰り返し打ち出しても、いずれ弾切れとなってしまう。

この点から、各国政府は医療体制の拡充、検査体制の強化、治療薬やワクチンの開発など、新型コロナウイルス封じ込め策に資源を集中的に投じるべきだ。さらに、経営基盤や生活基盤を失いつつある企業や家計をピンポイントで支援する、セーフティーネットの拡大も欠かせない。

入国規制で各国間に軋轢

最優先課題である新型コロナウイルス封じ込め策については、国際的な連携が非常に有効だ。しかし今までのところ、世界共通の課題である新型コロナウイルス対策で、国際連携、国際協調は十分になされていないとの印象がある。

例えば、海外からの入国規制の判断は、事前に対象国との調整をすることなく、各国政府が独自に決めるケースがほとんどだ。このことが、各国間で軋轢を生じさせ、国際協調の妨げとなっている。

米国は2月上旬に中国からの入国を規制したが、これに対して中国政府は、差別的だと強く反発した。また、今月には、米国は欧州諸国からの入国規制を決めたが、事前の協議がなかったとして、欧州連合(EU)は米国を強く批判している。

入国制限をきっかけに各国間の関係が悪化していけば、この先景気情勢が悪化した際に、各国が自国の産業を守るために追加関税の導入を決め、制裁関税の応酬へと発展してしまうリスクもあるのではないか。その結果、世界経済は一段と悪化してしまう。

入国制限など国境を越えた人の動きの制限は、各国が調整をしつつ秩序だって進めるべきだったのではないか。そして今後は、医療体制の拡充、検査体制の強化、治療薬やワクチンの開発などの分野で国際協調をより強化していくことが求められる。

中国は感染拡大の封じ込めに成功しつつあるか

既にG7(主要7か国)は、新型コロナウイルス対策で協調策を確認している。しかし、新型コロナウイルスの感染は、既に世界162か国にまで広がっており、G7の協調だけでは明らかに十分ではない。

中国が蓄積した新型コロナウイルス対策に関する情報、ノウハウを、各国で共有することが非常に有益だと思われる。感染源となった中国・武漢市では、18日にはついに新たな感染者数はゼロとなった、と国家衛生健康委員会は発表している。感染は欧米を中心に急速に拡大を続ける中、発生地である中国では、感染者数の増加ペースは着実に低下しており、比較的短期間で封じ込めに成功しつつあるようにも見える。

中国で、比較的短期間で感染封じ込めに仮に成功しつつあるとすれば、その背景には、都市の閉鎖、強制的な人の移動の制限、工場操業停止など、国家が私権を制限できる強い権限を持つ中国ならではの政策によるものであり、他の民主主義国家には簡単に真似できない、という面はあるだろう。

中国が蓄積したノウハウを活かす

しかし、そうした点にとどまらず、中国での医療体制の中に、感染者の回復を助ける、あるいは他者への感染を防ぐという観点等から、何らかの重要な秘密のようなものがあるのかもしれない。

少なくとも、大量の感染者に対応した経験から、膨大なビッグデータの蓄積があり、そこから治療法あるいは治療薬・ワクチンの開発にとって重要なヒントが見いだされるかもしれない。こうした点から、各国は中国と協調し、その情報、ノウハウを有効活用することが重要なのではないか。

ところが、米国と中国は、新型コロナウイルスを巡って、現在激しく対立している。米国は大統領、高官があえて「武漢ウイルス」、「中国ウイルス」との名称を使うことで、感染源である中国の責任を暗に批判し、中国側の感情を逆なでしている。

他方で中国は、ウイルスは米軍が中国に持ち込んだ可能性を指摘し、また、米国のジャーナリストを国外に追放するなどの対抗措置を講じている。

こうして両国の関係が極めて悪化する中では、中国と米国との間、あるいはG7との間で、情報をしっかりと共有する協調体制がとられるはずはない。

ウイルスの犯人捜しは事態が収束してからにして、今は、米国と中国が世界共通の敵である新型コロナウイルス対策を巡って、しっかりと協調して欲しい。世界が危機的な状況の下で、米国が自国主義を修正し、国際協調路線を受け入れることができるかどうかが、世界の新型コロナウイルス対策の成否のカギを握るという面もあるのではないか。

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