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日本市場で円安・株安・債券安のトリプル安

2020/03/19

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日本では珍しいトリプル安

19日の東京市場では、国債市場で価格が低下、利回りが上昇する動きが強まった。10年国債利回りは、一時1年4ヶ月振りの水準まで上昇している。

他方、株式市場では株価の下落、為替市場では円安が進んでいる。つまり、円安・株安・債券安の「トリプル安」となっているのである。これは日本では珍しい現象だ。

市場がリスクを意識する、いわばリスクオフの状況では、円高・株安・債券高、逆にリスクオンの状況では、円安・株高・債券安となりやすい。足もとのトリプル安は、まさに金融市場が異常な状態、異次元の状態にあることを裏付けるものと言えるだろう。

日本銀行は、国債市場の動揺を抑えるために、国債を臨時で買入れる措置を午前と午後の2回打ち出し、金融機関から合計で1兆3,000億円の国債を買入れ、資金を供給した。さらに、2本の共通担保オペで、合計4兆円の資金供給を合わせて実施した。異例の規模の臨時での資金供給である。

国債利回り上昇の背景に継続するドル需給のひっ迫

現状のように、景気の先行きに不安がある、あるいはリスクオフの状況では低下しやすい国債利回りが、逆に上昇している背景には、金融市場が不安定化する中で、金融機関によるドル手当ての動きが強まっていることがあるという。つまり、金融機関がドルの調達を急ぐ結果、保有している株などのリスク資産に加えて、国債も売却しているのである。それが正しいとすれば、利回り上昇の背後にあるのは、ドルの逼迫という問題である。

15日には各国中央銀行が、ドルの資金供給策を拡充することを打ち出した。翌16日には、新たに始められた3か月物のドル資金供給オペで、日本銀行は民間銀行に大量のドル供給を行い、ドル逼迫不安の緩和に努めた。それでも、ドルの逼迫傾向は続いているのである。

ドル需給のひっ迫度合い、あるいはドル調達コストを示すベーシス・スワップ・スプレッドの動きを見ると(当コラム、「ドル調達の不安は緩和されるか」、2020年3月18日)、週初から改善(縮小)してきたが、そのペースは極めて緩やかであり、また19日には小幅に再び悪化した。日本銀行の安定化策の実施にもかかわらず、ドル需給のひっ迫はなお解消されていないのである。

経済対策議論が国債の信用力を低下させていないか

日本では、金融機関のドル資金調達に支障が生じれば、それは金融機関の経営を揺るがすとともに、輸入業者のドル建て代金支払いにも支障が生じることで、経済活動に甚大な悪影響を与えかねない。ドルの調達は、日本の経済・金融にとってまさに大きな弱点なのである。

ただし、国債利回り上昇の背景には、ドルの手当ての動きに加えて、国債発行増加への懸念も部分的にはあるのではないか。4月に向けて、数10兆円規模に及ぶ巨額の経済対策の策定が国会で議論されている。これが、国債市場の需給悪化とともに信用力低下への懸念を生じさせている可能性もあるのではないか。

仮に国債市場の信用力が大きく低下するようなことがあれば、海外への資金逃避を伴い、日本の金融市場はまさに未曽有の混乱に追い込まれる。これは、取り返しのつかない事態である。日本での経済対策の議論は、こうした市場の警鐘を踏まえて、慎重に進めて欲しい。

各国ごとに市場の弱点の危機対応

日本の金融市場では、ドル調達が最大の弱点のように思われる。他方、金融市場の弱点は国によって異なっている。欧州中央銀行(ECB)は、7,500億ユーロの臨時の資産購入プログラムの導入を臨時の理事会で決定し、本日発表した。買入れ対象には、信用の質が十分と認定される金融機関以外のCP(コマーシャル・ペーパー)も新たに含まれる。欧州市場での最大の弱点は、社債とCPだろう。

他方、17日にCPの買取スキーム再開を発表した米連邦準備制度理事会(FRB)は、18日に、短期金融商品で運用する投資信託であるMMFに資金を供給すると発表した。投資家が現金保有の傾向を強める中、MMFの解約が殺到しているのだ。MMFには、CPなどを担保に資金を供給する。MMFを通じた資金供給の仕組みは2008年のリーマン・ショック後にも設けられたことがあり、CPの買取スキーム再開と共に、FRBは、リーマン・ショック時の危機対応を順次復活させているのである。

このように各中央銀行は、それぞれの市場の中の弱点を見極め、そこの動きに十分に注意を払いつつ、また、リーマン・ショック時にとった危機対応策を思い起こしながら、随時、緊急対応策を講じているのが現状だ。

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