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新型コロナウイルス問題で浮き彫りになったフリーランスの弱点

2020/04/07

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新たに浮上したフリーランスの問題

新型コロナウイルス問題による経済の悪化を受け、非正規社員の雇止めが注目されている。2008年のリーマン・ショック後に取り沙汰された「派遣切り」問題を思い起こさせるものだ。これに加えて、今回新たに浮上してきたのが、フリーランスの収入減という問題である。

ネットでのサービス提供が可能ではなく、対面サービスが求められる職種のフリーランス、例えば通訳ガイドやインストラクター等は、各種イベント自粛の影響で、大きな収入減に直面している。

政府が2月27日に全国の小中高校などの一斉休校を要請した後に、加藤厚生労働相は、フリーランスの働き方が多様で捉えどころがない、として、休校の補償の対象からフリーランスを除外する考えを当初示していた。その後、多くの批判を受けたことから、政府は、3月10日に決めた第2弾の緊急対応策で、子供を世話するために仕事を休むフリーランスに対して、日額4,100円の給付を決めた。

支給金を受けるには、仕事の有無や本来得るべき収入などの証明を求められる。ただし日本では、フリーランスに仕事を発注する企業が、契約書を発行しないことも多く、それが支給金受取りの障害になっている。そこで、納税証明書など前年同期の収入実績に基づき支給額を算出する手法を求める声が、上がっている。

フリーランスは働き方の自由度が高く、労働時間や報酬の個人差がかなり大きいのが特徴であり、その実態が分からないことが給付の制約となっていた。今回は、東京の最低賃金水準を念頭に、時給約千円で1日4時間働くと仮定して、日額4,100円という給付額が決められたという。

徐々に拡充されるフリーランス支援

政府は他に、業績が悪化している中小企業とフリーランスを対象に、大規模な特別貸付制度を新設した。フリーランスの場合には、政府系金融機関から上限3,000万円まで無利子・無担保で融資を受けられるようになった。

また、政府は、フリーランスを含めて休業状態で生活に困っている世帯向けに、小規模な特例貸付制度も整備した。各地の社会福祉協議会を通じて、申請から原則2日以内に上限20万円まで無利子・無担保で借りられるようになった。

さらに、4月7日にも閣議決定される緊急経済対策には、フリーランスなどの個人事業主が加入する国民健康保険の保険料を、国が補填する措置が盛り込まれる見込みだ。国民健康保険を運営する市区町村などに数百億円の財政支援をして、収入が減少するフリーランスなどの保険料を減免できるようにする。これで、フリーランスの医療と介護の保険料の負担が軽くなる。

また、緊急経済対策では、フリーランスを含む個人事業主に最大100万円の現金を給付する方向で検討されている。

海外でもフリーランス支援が拡大

このように、苦境に陥ったフリーランスに対する政府の支援は、段階的に拡充されてきている。しかし、海外と比べるとなお見劣りしているとの指摘も聞かれる。

英政府は3月26日に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い収入が急減した自営業者やフリーランスを対象に、1か月の所得の80%分を直接支援すると発表した。月額2,500ポンド(約33万円)を上限に3か月分を支給する。約380万人が対象になるとみられ、過去3年の確定申告をもとに支給額が決められる。既に決めた、雇用者向けの月給の80%支援に揃えた措置だ。

ドイツは自営業者らが3か月で最大9千ユーロ(約108万円)を受けとれる仕組みを導入した。総額は500億ユーロになる見込みだ。フランスでは政府が最大1,500ユーロ(約18万円)の支援金を出す。イタリアやスイスでも、フリーランスは一定額を得られる。

急増する日本のフリーランス人口

クラウドソーシング大手のランサーズによれば、国内の広義のフリーランス人口は、2019年で1,087万人に上る。その数は、2015年に比べ約2割増加し、労働力人口全体に占める比率は16%に達している。

このうち雇用契約のない人は、推計で約370万人である。個人事業主として仕事を請け負う人、出産をきっかけに退職して在宅でオンラインの仕事をする主婦らが中心である。残りの約716万人は、副業をしたり複数の会社で雇用契約を結んだりしている「副業・複業系」である。

通常我々がフリーランスとしてイメージするのは、前者の約370万人であり、それは労働力人口全体の5%強である。

遅れるフリーランスの法整備

フリーランスは、近年の情報技術の発展、特にネットの利用の広がりによって促された、新しいスタイルの働き方である。配車サービスやウェブデザインなど、ネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグ・エコノミー」の広がりで、雇用に頼らない働き手は、世界的にも増えている。特定の企業に属さないがゆえに、能力を発揮でき、より創造的な仕事を可能にするという側面もあるだろう。

しかし、日本の法体系、社会保障制度は、フリーランスといった新しい分野の働き方に対応できてない、との印象が強い。事業者と労働者の中間形態であるがゆえに、制度的な支援が十分に整備されていない面がある。

フリーランスは労働者ではなく個人事業者であることから、労働者を保護する労働基準法の適用対象とはされない。また、雇用保険の対象とはならず、事実上職を失っても失業給付を受けることはできない。

戦後日本では、労働者保護のための制度整備は長い時間をかけて行われてきたが、フリーランスはその恩恵を受けていない。日本でのフリーランスという働き方は、欧米などと比べても歴史が浅い。また人々の認知度も高くなく、いわば十分に市民権を得てない印象がある。さらに、フリーランスは所得が安定していないことから、クレジットカードを作ったり、マイホームや車のローンを組んだりする際に不利になるケースが多い。

フリーランスを日本経済の潜在力向上に活用

労働者と事業者とを明確に分ける、現在の2分法の法体系、そして社会保障制度のもとでは、今回のような経済的な危機が生じる際に、フリーランスの生活は大きく脅かされてしまう。その結果、フリーランスをあきらめて、アルバイト生活に転じる人も出てくる可能性があるだろう。しかしそれでは、フリーランスの人達が持つ、高い技能を日本経済に貢献することが難しくなってしまう。

今回の新型コロナウイルスの問題では、一時的な措置としてフリーランスの救済策がとられているが、やや長い目で見れば、フリーランス、あるいはギグ・エコノミーの労働者という新しい分野の働き手をカバーする制度を作り上げていくことが重要だろう。経済的なショックにも耐えられるよう、労働者と事業者の中間形態であるフリーランスのセーフティネット(安全網)をしっかりと整備していくことが重要だ。

そうした取り組みは、生産性、潜在成長率など日本経済の潜在力を高めていくという成長戦略の一環としても、位置付けられるだろう。

(参考資料)
「対面型フリーランス、苦境、契約書なく休業補償使いづらく、収入確保、動画に活路。」、日本経済新聞、2020年4月5日
「検証:派遣添乗員『収入ゼロ』コロナ対策なお不足」、毎日新聞、2020年4月5日
「フリーランス補償、乗り出す欧米 英、3カ月分・8割支給 米、週600ドル給付金も」、朝日新聞、2020年3月30日

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