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資金が枯渇した米国の給与支援策と日本の雇用調整助成金の違い

2020/04/21

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米国の中小企業支援策「給与保障プログラム(PPP)」

米国議会が第3弾の新型コロナウイルス対策法として3月27日に成立させた「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES:Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security)法」の中で3,500億ドルがあてられ、中小企業支援の柱とされたのが、「給与保障プログラム(PPP)」である。これは、従業員500人以下の企業が雇用を維持すれば、給与や賃料、光熱費など約2.5か月分、最大1,000万ドル(約11億円)までは政府が肩代わりするという仕組みである。

表面的には融資の形をとっているが、雇用を維持すれば返却する必要がない規定が含まれていることから、事実上は補助金の性格が強いといえる。

中小企業向けの融資は、これとは別に米連邦準備制度理事会(FRB)が実施しているものがある。それは、2.3兆ドルの資金供給策に含まれており、従業員数1万人以下のより規模の大きい中小企業に対する期間4年間の融資を、FRBが銀行を通して実施するものだ。

労働市場の流動性が高い米国では、このPPPのように、事前に雇用の調整を回避する措置がとられることは異例である。それほどまでに新型コロナウイルス問題による経済の急激な悪化と失業者の急増が与える社会的影響を、政府と議会が強く警戒したということだろう。

PPPは2週間で枯渇

ところで、このPPPの資金が、わずか2週間で枯渇するという事態が生じてしまった。米国中小企業庁(SBA)は4月16日に、PPPの申請が殺到し、予算が底をついたことから新規受付の停止を表明したのである。

この事態を受けて、米政府、議会は、PPPの増額を審議している。今のところ3,000億ドル程度の増額が有力だ。共和党は、民主党が求める州・地方自治体支援とフードスタンプ(食料配給券)を追加策に含めることを拒否する一方、民主党の求めに応じて病院の支援策は含める方向のようだ。早ければ、近日中に両党は合意する見通しだ。

PPPがなければ失業率は60%超も

このPPPが失業者の増加をどの程度防ぐのかを、簡単に試算してみよう。当初の予算3,500億ドルと増額分の見通し3,000億ドルを合計すると6,500億ドルだ。2019年の米国の平均所得は年間51,960ドル(570万円程度)である。その2.5か月分は10,825ドルとなる。6,500億ドルをこの10,825ドルで割ると、ちょうど6千万人分となる。

このPPPは、6千万人分もの雇用を救う計算となるのである。仮にこの6千万人分が失業者になるとすれば、米国の失業率を実に36.8%も押し上げることになる。

ところで、4月9日までの4週間での新規失業保険申請件数は2,200万件に及んだ。これは、5月に発表される4月分雇用統計で、失業者の急増として表れる。2,200万件の新規失業者の増加は、失業率を13.5%押し上げることになる。3月の失業率は4.4%であるが、向こう数か月のうちには20%を大きく上回る可能性が高い。

仮に、PPPが実施されていなかったら、米国の失業率は60%を超える可能性が高い。これは想像を絶する水準であり、まさに経済・社会が崩壊している状況といっても過言ではないだろう。

浮かび上がる日本の雇用調整助成金の課題

このように、米国では異例の策として実施されたPPPは、60%にも達しかねない米国失業率の急上昇を回避することに大きく貢献することが期待される。それに加えて、実質的には給与保障であるといっても、融資制度の体裁をとることによって、まず企業に資金を供与することで、企業が資金繰りに行き詰まって破綻する事態を回避できる。これは妙策と言えるのではないか。

これと対照的なのが、日本の雇用調整助成金制度ではないか。総額117兆円規模の大型経済対策はまだ成立していないが、既存の制度である雇用調整助成金の拡充策は既に実施されている。4月からは、中小企業が雇用者に休業手当を支払うと、その最大9割が助成されることになった。

しかし、この雇用調整助成金には使い難さも多く指摘されている。労働者がこの制度の適用を望んでも、企業がそれを申請しなければ適用されない。あくまでも、企業が支給した休業手当に対する事後的な助成なのである。

さらに、詳細な休業計画が要求されるなど、手続きが非常に煩雑であるうえ、オンラインでの申請は認められていない。そのため、日本経済新聞(2020年4月20日付)によると、厚生労働省が把握する最新の4月10日時点で、申請件数は約460件にとどまるという。さらに、事務処理スピードの制約などから、その時点で支給が決定されたのはわずか3件だという。

中小企業にとって大きな問題なのは、休業手当を支払って初めて助成を受けられるという点である。その間に、資金繰りが行き詰ってしまう企業も出てくるのではないか。この点が、米国のPPPと決定的に異なる点である。

このように、日米の中小企業の雇用支援策を比較するだけでも、米国での対策の方が、格段にスピード感があり、かつ非常にパワフルであることが確認できるだろう。

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