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日本銀行の政策の軸足は物価安定から金融システム安定へ

2020/04/21

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日本銀行が金融システムレポートを公表

日本銀行は4月21日に、新型コロナウイルス問題が発生してから初めて、半期に一度の「金融システムレポート」を公表した。「日本の金融システムは全体として安定性を維持している」との総括判断は変更されなかった。

新型コロナウイルス問題によって内外経済が急激に悪化し、日本の金融システムは強いストレスを受けているとしながらも、総括判断をなお維持した背景として、①日本の金融機関は資本、流動性の双方でもともと強いストレス耐性を備えていること、②政府・日本銀行が迅速で強力な政策対応を講じたこと、③日本企業の財務基盤が良好であること、を挙げている。

これらの指摘は正しいように思われるが、いずれにしても金融市場の大きなリスクは、少なくとも今のところは、日本よりも欧米にある。これは、2008年のリーマン・ショック(グローバル金融危機)の時と同じだ。当時は、海外での金融危機が経済危機を生じさせ、それが日本に飛び火してきた。今回は、新型コロナウイルス問題が世界同時の経済危機をもたらし、それが金融市場、金融機関に大きなストレスをかけている。金融危機につながるリスクは、引き続き残されている状況だろう。

金融不均衡の形成では中央銀行の責任も

今回の金融システムレポートでは、長期にわたる低金利環境のもとで、内外では金融面での脆弱性が蓄積されてきた、と指摘する。新型コロナウイルス問題による経済の悪化が長期化する場合には、それらの脆弱性が金融の本格的な調整に結び付き、経済と金融のスパイラル的な悪化につながる可能性がある、と警鐘を鳴らしている。これは、的確な指摘である。

ただし、長期にわたる低金利環境を作り出した点、そのもとで金融機関の過剰な投資・融資のリスクの蓄積を許したという点において、金融政策、プルーデンス政策の両面から、日本銀行を含む主要中央銀行の責任は免れないのではないか。

さらに、世界の金融は既に本格的な調整局面に入っており、仮に新型コロナウイルス問題の終息で経済が正常化しても、金融市場・金融機関の正常化にはより時間がかかるように思われる。

政策の重点はマクロ金融政策からプルーデンス政策へ

今回の金融システムレポートには、あまり新しい論点・分析は示されなかったように見えるが、今までのレポートの中で、金融面でのリスクについては、既に相当指摘されてきたと言って良いだろう。

今回のレポートでは、先行き注意を要するリスクとして、金融機関の貸出しについては、国内ではミドルリスク企業向け貸出、不動産賃貸業向け貸出、海外ではエネルギー関連企業貸出が挙げられている。金融機関の証券投資については、大手行による海外クレジット投資、地域金融機関の投資信託投資が挙げられている。さらに、金融機関によるドル調達の不安定化も挙げられている。 確かに、従来からレポートで指摘されてきたこれらの点を、今後はしっかりと注視していけば良いのだと思う。

欧米では、ハイイールド債、投資適格のBBB格社債、CLO(ローン担保証券)、CMBS(商業用不動産担保証券)などの証券化商品の市場、そして金融機関では、ヘッジファンド、投資信託、保険会社といったノンバンクに大きなリスクがある。欧州では、これに加えてイタリアなど南欧諸国の国債も問題である。他方、地域金融機関の不良債権問題が表面化しやすい点が日本の特徴であり、これがリーマン・ショック時、そして現局面での欧米諸国との違いではないか。

日本銀行の政策の中心も、もはや有効な手段を使い果たしたように思われる、物価安定というマンデート(責務)の達成を目指すマクロ金融政策から、20年前までのように、信用秩序の維持というマンデートの達成を目指すプルーデンス政策へと、大きく軸足を移していくことになるのではないか。日本銀行にとっては、まさに時代の大きな転換点である。

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