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与野党間で議論が高まる事業者の家賃支援は地方主導の枠組みで

2020/04/27

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家賃支払い支援で与野党がそれぞれ独自案

2020年度補正予算を巡る国会審議では、中小・零細事業者の家賃の支払い負担をどのように軽減するか、が論点の一つとなってきた。実際には、それは、今回の補正予算ではなく第2次補正予算案の審議での大きな争点となるのではないか。2020年度補正予算が可決された直後から、第2次補正予算に向けた議論が始まる可能性が高い。

政府は、補正予算政府案に含まれる事業所に対する給付金制度が、この家賃支払いの支援もカバーしているため、追加措置は不要、との立場のようだ。これに対して野党共同会派は、既に関連法案をまとめている。2割程度の減収になったテナントの中小・零細企業などの家賃支払いを対象にして、不動産所有者が借り手のテナントから賃料を受け取れない場合には、日本政策金融公庫など政府系金融機関が一時的に肩代わりする。さらに、テナントが政府系金融機関に肩代わりしてもらった賃料を返済する期間も1年猶予する、というものだ。

野党に議論の主導権を握られた感のある自民党は、テナントの中小・零細企業に補助金などを直接給付する案を軸に、検討を進めている。

与野党案はともに既存の制度と重複感

与野党双方の案はいずれも、政府の緊急経済対策、2020年度補正予算案に盛り込まれた支援策と、重複感がある点に大きな問題があるのではないか。

自民党の補助金案は、事業者に対する給付金制度と重複してしまう。他方、家賃を政府系金融機関が一時的に肩代わりするという野党案は、政府系金融機関による中小・零細企業に対する低利・実質無利子融資と、実質的には変わらないのではないか。

家賃の議論が高まってきた背景には、家賃支払いが中小・零細事業者にとって、非常に大きな負担となっているからに他ならない。飲食店のコスト構造は、一般に売上高の約6割が原材料費と人件費、約1割が家賃であり、それ以外に水道光熱費などがある(「中小飲食店、背水の資金繰り 臨時休業で重い家賃負担」、日本経済新聞電子版、2020年4月26日)。

このうち、人件費の支払い負担については、事業者支援というよりも雇用維持の観点に基づくものではあるが、雇用調整助成金制度という公的支援制度が既にある。

また、売り上げが落ち込んだ事業者は、それに合わせて原材料の調達を削減する。それは原材料の納入業者の売り上げ減少となるが、納入業者への打撃は給付金制度でカバーされることになる。残された家賃の負担が大きいことが、家賃支払いに焦点をあてた政策論争をもたらしているのである。

より迅速に稼働するのであれば野党案も意味がある

そもそも、既に始められている政府系金融機関による融資制度が十分に機能しているのであれば、野党が考える家賃を政府系金融機関が肩代わりする措置は必要ないのではないか。また、新たに導入される給付金制度が、事業者の家賃支払いを十分に賄えるのであれば、自民党が示す措置も必要ではない。

問題は、既存の枠組みのもとでは、事業者の家賃支払いに間に合わない、あるいは金額が十分ではない、ということが議論の底流にあるのだろう。

さらに、事業者が政府に自らの窮状を訴え、支援を求める際に、家賃負担という新たな論点をアピールし始めた、ということもあるだろう。実際、カフェや居酒屋チェーンなどの飲食店経営者らでつくる「外食産業の声」委員会は、「家賃支払いモラトリアム法案」を提唱しており、不動産オーナーに家賃交渉に応じることを義務付け、また、不動産会社への家賃の支払いを一定期間猶予、減免できる法整備を政府に求める、と発表した。

野党が提唱する、家賃を政府系金融機関が一時的に肩代わりする措置が、政府系金融機関あるいは民間銀行による低利・実質無利子融資よりも、もし迅速に稼働するのであれば、それを導入することには意味があるだろう。

よりきめ細かい給付金制度へと順次見直していく必要

他方、給付金制度との重複がある自民党案の補助金制度については、もう少し詳細に制度設計を考えてみる必要があるのではないか。いずれにせよ、2020年度補正予算に含まれる給付金の金額は十分ではなく、今後、第2次、第3次補正予算が編成される中で、金額を積み増していく必要が生じるだろう。

しかし、単に給付金を増額していくのではなく、事業者の破綻を回避するために、よりきめ細かい制度へと順次見直していくことが望まれる。現在の給付金制度は、売上高の減少幅を基準にして、事業者に一定金額を支給するものだが、事業者のコスト構造が異なれば、同じ売上高の減少幅であっても、収益に与える影響は大きく異なってくる。

まさに、家賃支払いという、休業しても支払い続けなければならない固定費である家賃の負担が大きいというコスト構造を持つ事業者は、売上高の減少から受ける収益の打撃はより大きく、事業を継続できなくなる確率もより高まるだろう。

事業者への追加支援はより地方主導で

そこで、給付金を増額していく際には、売上高の減少幅だけを基準にするのではなく、売上げの減少が、実際に、事業継続にどの程度障害になっているのかを個々に判断して、それぞれ必要な額を給付していく、というきめ細かい対応が望まれる。その際に、家賃負担は重要な要素になるだろう。

また、家賃負担の程度は業種によっても異なるが、場所によっても大きく異なる。大都市部の方が地方部と比べて、家賃負担は大きくなる。

売上高の減少幅ではなく、家賃負担の程度によっても大きく左右される事業継続のリスクをきめ細かく判断し、必要な給付金を決定するようなことは、国の業務としては不可能だ。それは、都道府県、あるいは市町村レベルでなければできないことである。実際、青森市、熊本市、姫路市などの市町村レベルで、独自の家賃支援策を講じる動きが、既に数多く見られ始めているのである。

従って、家賃負担も考慮した形での給付金、補助金の追加策については、順次、地方主導としていくべきだ。現在の補正予算に含まれる1兆円の地方創成特別交付金を2次補正でさらに大幅に増額することで、その財源を地方へと移転できるだろう。

与野党間で高まっている家賃支払いの支援策は、このように、事業者支援をよりきめ細かいものへと順次変えていく、そして国主導から地方主導としていく、という2つの流れの中で議論を深めていくべきだろう。

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