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日本銀行は臨時会合で金融機関への新たな資金供給制度を決定へ

2020/05/20

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臨時会合の開催に驚きはない

日本銀行は、5月22日(金)午前9時より、金融政策決定の臨時会合を招集することを発表した。ただし、この臨時会合で、政策金利引下げや資産買入れ拡大などの、追加金融緩和策が打ち出される訳ではないだろう。

4月27日の前回決定会合では、中小企業の資金繰り支援のため、金融機関への新たな資金供給を実施する考えが示された。それを6月15、16日に予定されている次回の定例金融政策決定会合を待たずに、その前に正式に決定して実施することが、臨時会合を招集することの目的である。

同制度について黒田総裁は、「次回6月の決定会合を待たずに、決定・実施することも視野に入れて、早急な検討を進めている」と従来から説明してきていた。この点から、今回の臨時会合の開催には全く驚きはない。

同制度については、前回会合の対外公表文では、以下のように説明されていた。

「日本銀行として、中小企業等の資金繰りを更に支援するため、政府の緊急経済対策等における資金繰り支援制度も踏まえた金融機関への新たな資金供給手段(骨子は別紙)の検討を早急に行い、その結果を改めて金融政策決定会合に報告するよう、議長より執行部に対し、指示がなされた」

規模の小さい銀行が新制度を多く利用か

別紙に書かれた骨子によると、同制度は、①貸出利率はゼロ%、②利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算、③利用残高に相当する当座預金への+0.1%の付利、との条件で日本銀行が金融機関に資金を供給する。この3点について、既に導入している「新型コロナ対応金融支援特別オペ」と同様である。

違うのは、後者は民間債務全体を担保として認めており、それを通じて金融機関が貸出を増やすだけでなく、担保利用のためにCP、社債の購入を拡大させることでそれらの市場環境を改善させ、企業の資金調達などを助けるという効果も狙っている点だ。

これに対して、新制度は、すべての共通担保を担保とする貸付の制度である。つまり、金融機関が日本銀行に差し入れている担保のうち、相当部分を占める国債を担保にして、有利な条件で資金を日本銀行から調達できるようになる。その恩恵を最も大きく受けるのは、民間債務担保を多く有しない規模の小さい銀行だろう。

個人事業主への貸出も対象か

そして新制度は、政府の緊急経済対策における実質無利子・無担保の信用保証付き融資を行う金融機関が対象となる。4月の決定会合では、対象とする貸出の範囲はまだ決まっていなかった。しかしその後、黒田総裁は中小企業に加え「個人事業主への貸し出しも含める可能性がある」と国会で答弁していたことから、臨時会合では、この点が決定されるのではないかと推察される。

そうなれば、日本銀行としては、小規模事業者に対する小規模銀行の貸出を強力に支援する、異例なスキームに新たに乗り出すことになる。これは、日本銀行のバランスシートの拡大ペースを、かなり加速させる可能性がある。

日本銀行の重要な貢献に

政府による実質無利子・無担保の信用保証付き融資を日本銀行なりに側面から支援するこの新制度には、日本銀行が政府との協調を対外的にアピールする意図があるだろう。

ただし、中小・零細企業が倒産・廃業のリスクに直面し、それが多くの失業者を生み出すことで、生活者の生活基盤も損ねてしまう危険性がある現状下では、かなり規模の小さい事業者も含めて、金融面から日本銀行がそれらを支援していくことは非常に重要である。

少なくとも、政策金利の引下げやETFの買入れ拡大、国債買入れの拡大といった金融緩和措置よりも、ずっと意義のある施策を、日本銀行はこの臨時会合で決めることになる、と言っても良いのではないか。

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