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緊急事態宣言解除と2次補正予算案:企業・個人の支援はまだ道半ば

2020/05/25

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2次補正予算案で事業規模100兆円超の対策

政府は、5月27日に第2次補正予算案を閣議決定する。来月17日の国会会期末までの成立を目指す。25日に緊急事態宣言は全面的に解除されても、経済活動が直ぐに正常化することはなく(コラム「緊急事態宣言解除で個人消費の戻りは半分か」、2020年5月25日)、当面は企業・個人の支援策を継続させることは欠かせない。

26日付の日本経済新聞は、政府は第2次補正予算案の事業規模を100兆円超とする方向、と報じている。4月に成立した第1次補正予算の事業規模117兆円と遜色のない規模にすることで、新型コロナ対策に取り組む政府の積極姿勢を示すことを狙っているのだろう。

ただし、この事業規模には民間融資の増加なども含まれる。政府(国と地方公共団体)による財政支出額は、第1次補正予算案では48兆円だった。しかしこの財政支出額には財政投融資なども含まれる。経済活動に直接影響を与える政府の一般会計での歳出増加額をいわゆる「真水」と考えれば、それは第1次補正予算では25.7兆円だった。

「真水」以外では、日本政策金融公庫や民間の実質無利子・無担保融資の拡充などで60兆円超、政府系金融機関による劣後ローンや出資枠拡大などで約12兆円、公的資金注入を認める金融機能強化法の枠組みで15兆円がそれぞれ検討されている、と26日付の日本経済新聞は報じている。これだけで90兆円近くに達する。

「真水」の規模は第1次補正予算を下回るか

第1次補正予算に含まれた経済対策は、かなり包括的なものであり、感染収束後の消費刺激策や産業構造転換の支援など、長期的な視点に基づく支出項目も含まれていた。他方、今回は比較的目先の対応に限られることから、その規模は、第1次補正予算での「真水」である25.7兆円を下回る可能性が高いのではないか。

第2次補正予算案での経済対策の柱は、企業への家賃支援と雇用者支援策の2つである。後者の雇用者支援策については、雇用調整助成金の1日当たりの上限を8,330円から1万5,000円に引き上げることと、休業者に失業手当を支払う「みなし失業」制度の適用となろう。共に、本来は雇用保険基金から賄われるものだが、規模が大きくなるため、一般会計に増加分の一部あるいは全部が計上されるだろう。

「予備費」と「地方創生臨時交付金」の大幅積み増しが最大の特徴か

更に、当座の使途が必ずしも明確ではない「予備費」と地方自治体向けの「地方創生臨時交付金」を大幅に積み増す点に、第2次補正予算案の最大の特徴があるのではないか。

第1次補正予算では、新型コロナウイルス対策の予備費に1兆5,000億円が計上された。政府は、新型コロナウイルスの影響で困窮する大学生らに1人あたり最大20万円、総額約530億円を給付する支援策を19日に閣議決定している。これには、第1次補正予算及び本予算の予備費が活用される。

他方、日々情勢が変わる新型コロナウイルス問題に迅速かつ柔軟に対応できるよう、より大きな額の「予備費」を確保すべきという意見が与党内で広まっている。報道によれば、予備費に数兆円~10兆円程度が必要、との声が出ている。最終的には5兆円程度が落ち着きどころとなるのではないか。

他方、「地方創生臨時交付金」については、第1次補正予算では1兆円が計上された。連立与党の公明党は、新たに3兆円計上し、そのうち1兆円を事業者向けの家賃支援に特化した交付金とすることを提案している。「地方創生臨時交付金」が増額される可能性は高い。

使途が明確ではない予算を多く計上することは、本来は望ましいことではないが、日々情勢が変わる新型コロナウイルス問題に迅速かつ柔軟に対応する、あるいは対策で地方公共団体の裁量の余地を広げることで、より精緻な支援策にしていく、との観点からは正当化できるだろう。

企業の家賃支援はまだ2兆円程度足りない

自民党は1か月の売り上げが前年同月比で50%以上減っている事業者を対象に、家賃支払いの最大で3分の2、上限は月50万円、半年分で300万円の「特別家賃支援給付金」を政府に提言したが、概ねこれに沿った形で政府案が作られるだろう。その場合、予算規模は2兆円程度になると見込まれる。

他方、1次補正予算の中で、主に家賃支払いの支援を念頭に置いたと政府が説明していた「持続化給付金」は2.3兆円であった。これとほぼ同規模になるだろう。

ところで筆者の試算では、半年間で個人消費が47兆円程度失われ、企業の売上高が70.6兆円減少することを前提に、総額7.1兆円の家賃支援が必要となる。1次補正予算で計上した企業向けの持続化給付金2.3兆円が、主に家賃支援を念頭に置いたものであるならば、半年間で未だ4.8兆円の追加の家賃支援が必要となる計算となる(コラム「緊急事態宣言延長後の追加財政支援必要額の推計:半年間で32兆円」、2020年5月7日)。2次補正で2兆円程度の「特別家賃支援給付金」が計上されても、まだ3兆円程度足りない計算となる。

企業・個人の支援は未だ道半ば

また筆者の試算によると、4月から9月までの半年間で消費は約47兆円減少する(コラム「緊急事態宣言は延長:半年間で50兆円規模の個人消費が消失か」、2020年4月30日)。ここから、企業収益などを除いて個人と家計の支援の必要額を計算すると、約43兆円となる。

これが、企業の経営や個人の生活を支えていくために必要な財政規模の試算値だ。ところで1次補正予算の中で、新型コロナウイルス問題で打撃を受けた企業・個人の支援は約11兆円に達したと試算される。さらに、2次補正では、企業・個人の支援は、2兆円程度の「特別家賃支援給付金」、雇用者支援策を含めて、最大でも5兆円程度ではないか。その場合、合計額は16兆円程度となり、必要支援額約43兆円の3分の1強程度だ。

既に述べた「予備費」と「地方創生臨時交付金」の一部が企業・個人の支援に充てられるだろうが、それでも合計額は最大の場合でもなお、必要支援額約43兆円の半分程度にとどまろう。

企業の経営持続、個人の安定した生活維持のために必要な支援は、金額面ではまだ道半ばであり、秋以降も補正予算の編成は不可避であろう。

2次補正の景気押し上げ効果は、1次補正の1.3%の半分以下か

ちなみに、1次補正予算の経済対策は、GDPを1.3%程度押し上げると筆者は試算した(コラム「緊急事態宣言と緊急経済対策の同時修正の衝撃」、2020年4月17日)。2次補正予算の景気押し上げ効果はその半分以下と、これをかなり下回るだろう。現状の経済対策に求められるのは、景気刺激効果ではなく、企業・個人をしっかりと支えることであるから、景気刺激効果は小さくても問題はないだろう。

しかし他方で、経済対策を赤字国債の発行で安易に賄い、将来世代の負担を高めることは、世代間公正の観点のみならず、日本経済の将来の潜在力を一段と低下させるという観点からも大いに問題だ。

2次補正予算の編成の議論が高まる中で、財源確保の議論が全く聞こえてこないのは残念だ。政府には、経済対策の支出面と財源の両面から、責任ある姿勢を示して欲しい。

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