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資金確保に奔走する企業の姿を浮き彫りにする法人企業統計

2020/06/01

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企業の現預金増加を示す法人企業統計

未曽有の経済危機に直面した日本企業は、資金(流動性)確保に急速に動いている。財務省が6月1日に発表した法人企業統計調査で、2020年1-3月期の企業の売上高は季節調整済前期比で+1.9%、設備投資は同+6.7%と、予想以上に良好な結果となった。売上高、設備投資ともに、資本金10億円以上の大企業の堅調ぶりが特に目立っている。

しかしこれは、いわば嵐の前の静けさであり、4-6月期以降は、大企業も含めて経済環境の急速な悪化に見舞われることは既に見えていた。そこで企業は、売上高が大幅に減少する中でも資金繰り(債務返済)に支障が生じないように、1-3月期に資金(流動性)確保に急速に動いたのである。

2020年1-3月期に企業は現金・預金を202.7兆円から206.5兆円と3.8兆円積み増した。前年同期比では+1.3%と、10-12月期の同+0.6%から増加ペースを高めている。これは、銀行借入の増加による流動性確保の動きを反映しているとみられる。実際、金融機関からの短期借入金は前年同期比+7.7%と急増している。

企業の手元流動性は売り上げの1.8か月分

現金・預金と有価証券の合計を月間平均売り上げで除した「手元流動性比率」を計算すると、1-3月期の手元流動性は、月間売上高の1.84か月分であった。前期比の1.88か月と比べると幾分低下したが、季節的要因を取り除くために前年同期と比べると、前年同期の1.75か月よりもかなり手元流動性は手厚くなっている。

コミットメントライン契約は歴史的増加

さらに、3月以降に際立ってきたのが、銀行が企業に対して一定の期間、一定の融資枠を設定するコミットメントライン契約の増加である。3月のコミットメントラインの契約額は、前月と比べて0.9兆円、4月はさらに2.9兆円と急増している(図)。4月の契約額は前年同月比で+20.3%と、2002年以来の高い増加率となった。10年前のリーマンショック時よりも、コミットメントライン契約を通じた企業の資金確保の動きは格段に強い。これは、将来の資金繰り維持に対する企業の強い不安を反映しているだろう。

また4月には、コミットメントライン契約を行使、つまり契約に基づいて企業が資金を引き出した額が、0.6兆円増加した。必要に備えて資金を確保する段階から、必要となった資金を引き出す段階へと一歩進んだのである。

(図)コミットメントライン(信用供与枠)契約

公的支援による資本性資金確保のステージに

また、足もとでは、社債の発行を通じた企業の資金調達も増加している。3月から5月までは、国内社債の発行額は前年同月の水準を下回っていたが、6月には前年同月の水準を上回り、昨年12月以来の1兆円超となる見通しだ。日本銀行が、残存期間5年未満まで新たに買入れ対象としたことも発行条件の改善に寄与していよう。

ただし、コミットメントライン契約を通じて資金の確保、あるいは資金を引き出すことはできても、また社債の発行を通じて資金を調達できても、売上急減で赤字が続けば、自己資本が着実に減少していく。そうなれば、企業の信用力の低下から、銀行からの借入れやコミットメントラインの新規契約は次第に難しくなっていく。社債の発行も難しくなっていくだろう。そのため、企業としてはさらに次の段階へと対応を進める必要がでてくる。それが資本増強である。

余力のある企業は通常の公募増資を行うが、そうでない企業は、公的支援による資本性資金の注入という手段に依存せざるを得なくなってくる。

政府は、2次補正予算の中で、政府系金融機関による、劣後ローン、あるいは優先株を通じた大手企業に対する公的支援の枠組みをまとめた。売り上げ減少の下で収益の悪化が続く中、企業の資金繰り問題は、そうした公的支援が必要なステージにまで進んできたことを意味するのだろう。

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