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急増する銀行貸出と日本銀行の追加措置

2020/06/08

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消費の自粛で個人の預金も急増

日本銀行が6月8日に公表した5月分「貸出・預金動向」は、銀行・信金による貸出残高が5月に入って急増したことを裏付けた。前年同月比増加率は+4.8%と4月の同+2.9%から大幅に上昇し、1991年8月の同+5.3%以来の高水準となった。2019年10-12月期、2020年1-3月期はそれぞれ前年同期比+2.0%だった。

コロナショックで売り上げが急減した中小零細企業が資金繰り確保に動き、また大手企業も予防的に資金の確保に動いたことが貸出急増の背景だ。

他方、銀行(信金を含まない)の預金残高は5月に前年同月比+6.2%と、4月の同+4.2%から加速した。地銀・第2地銀の5月の預金残高は、前年同月比+3.8%と貸出残高の増加率と同水準だったが、都銀では、5月の預金残高は前年同月比+8.2%と、貸出残高の同+6.6%を大幅に上回っている。

企業向け貸出の増加は預金を同額増加させるが、それに加えて、個人の預金が都銀を中心にかなり増加していることを、こうした数字は意味していよう。背景にあるのは、個人が消費を自粛する中、銀行口座から資金が引き出される額が減っていることがあるのだろう。

足もとで企業向け貸し出しは増加しているとは言え、銀行の預貸率(預金残高に対する貸出残高の割合)は一段と低下しており、銀行の資金運用難傾向はより強まっている。

民間銀行の実質無利子融資制度は2次補正で拡充

銀行の貸出が急増した背景には、1次補正予算に盛り込まれた、民間金融機関による実質無利子・無担保融資制度が5月に始まったことがある。3月17日には、コロナ問題で打撃を受けた企業向けに、日本政策金融公庫などによる実質的に無利子・無担保で融資を受けられる特別貸付制度が始められたが、5月にはこれが民間銀行にも拡大されたのである。

この制度は、信用保証制度を利用した都道府県等の制度融資への補助を通じて、民間金融機関においても、実質無利子・無担保・据置最大5年・保証料減免(半分又はゼロ)の融資を可能にしたものだ。融資上限額は3,000万円で、補助期間は、保証料は全融資期間、利子補給は当初3年間となる。

さらに、2次補正予算が成立すれば、民間金融機関によるこの特別貸付制度は一段と拡充される。融資上限額は3,000万円から4,000万円に引き上げられる。これに応じて、企業からの融資の申請も拡大するだろう。

政府は、1次補正では民間金融機関によるこの特別貸付制度の事業規模を24.2兆円と見積もっていたが、2次補正では28.2兆円としている。同制度の下での民間金融機関の貸出は、7月以降も高い増加率を続けるだろう。

日本銀行の「新たな資金供給手段」が銀行のリスクテイクを促す効果は不確実

ところで日本銀行は、5月22日の臨時会合で、民間金融機関による無利子・無担保融資という政府の経済対策を側面支援するために、同制度の下での融資などを対象に、期間1年以内、金利ゼロ%で供給し、さらに金融機関が日銀に預け入れる当座預金に0.1%の金利を付与する約30兆円規模の「新たな資金供給手段」を決めた。

この30兆円という規模は、1次補正で政府が見積もった、この特別貸付制度の事業規模24.2兆円をベースにしたものだ。これに、信用保証が付かない、銀行が自ら貸し倒れリスクをとる「プロパー融資」の拡大を含めて、約30兆円としたとみられる。

信用保証が付く融資は、リスク比率がゼロで規制上の自己資本比率を低下させない。このため、民間銀行にとっては政府の特別貸付制度を利用するメリットは大きい。

しかし、日本銀行から好条件で借り入れができても、民間銀行はプロパー融資には慎重な姿勢を崩していない模様である。この点から、日本銀行の「新たな資金供給手段」によって民間銀行の貸出が促され、企業の資金繰りが支えられるという面はそれほど大きくはなさそうだ。足もとで融資が増えているのは、主に政府が民間銀行に与えるインセンティブによるところが大きいだろう。日本銀行の「新たな資金供給手段」が銀行のリスクテイクを促す効果は不確実である。

「新たな資金供給手段」の枠倍増は、政府の施策に足並みを揃えたもの

6月15、16日の次回金融政策決定会合で、約30兆円規模の「新たな資金供給手段」を倍増し、他の2つのスキームとの合計で約75兆円としている「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」の規模を、100兆円規模にまで拡大させるとの報道がされている。

これは、2次補正で、政府が特別融資制度の規模を28.2兆円としていることを、単純に反映させるもの、政府の施策に足並みを揃えたものだ。その場合、いわゆるプロパー融資の追加的な増加については、少なくとも大きな規模では考慮に入れないということだろう。

追加の金融緩和策とは言えないのでは

実際に、次回金融政策決定会合では、そうした措置が発表される可能性が高いだろう。一方、それ以外の措置は示されないのではないか。しかし、政府の追加措置を単純に反映するだけであれば、これは追加の金融緩和策と言うべきではないだろう。

日本銀行の現在の政策目標は、政府と協調して、企業と雇用を支える、ということである。この観点から、「新たな資金供給手段」は、日本銀行としては最大限のことをしている、との評価はできるだろう。

しかし、あくまでも企業や雇用の支援を主導するのは政府である。日本銀行の「新たな資金供給手段」が、民間銀行のリスクテイクを促し、貸出意欲を高めているという面が強くないのであれば、それは、銀行に0%の融資、0.1%の付利を与える補助金政策に近いものでもある。これは、経済対策としてではなく、金融機関の収益環境を支え、金融システムの安定を確保するためのプルーデンス政策として評価されるべきであろう。

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