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株価暴落:再燃する二番底懸念と日本銀行の対応

2020/06/12

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株価大幅下落は自然な調整か

6月11日(米国時間)の米国市場で、ダウ平均株価は1,861ドルの大幅下落となった。値下がり幅は過去4番目の大きさである。米国でコロナ感染の「第2波」への懸念が高まったことが調整のきっかけとされているが、それはやや後付けの説明と感じられる。

実際には、感染収束や経済再開への期待から、5月後半以降に株価が余りに急速に戻したことへの反動、という側面が強いのではないか。この面からは、自然な調整とも言えるだろう。他方、6月10日の米連邦公開市場委員会(FOMC)開催直後に株価が大きく下落したのは、米連邦準備制度理事会(FRB)が新たな政策措置を発表するたびに株価が大きく下落した、3月の状況を彷彿とさせる。

感染拡大が一巡することと、経済環境が正常化することとは別である。ひとたび大きな経済的ショックに見舞われると、その後遺症はかなり重く、また長期化しやすい。コロナショックを受けて、世界では、向こう数年分の企業や個人の所得が失われてしまい、二度と戻ってこないことはほぼ確定的とも思える。これは株式など資産の価格に大きな打撃を与え、金融・財政両面からの積極的な対応などでは容易には穴埋めできないはずだ。

本格的な「二番底」かどうかは不明

さらに、先行きの感染の状況、それを受けた経済状況については、あまりにも不確実性が高く、リスクが大きい。こうしたもとで、株価がコロナショック前の水準に向けて着実に戻っていくことは、不自然に感じられた。

足もとの株式市場の調整が、本格的な「二番底」に向かう動きであるかは、なお明確ではない。そこまでの動きではないかもしれない。

しかし、これをきっかけに、多くの金融商品に追加のリスクプレミアムが乗ることになるだろう。信用力の低い社債、証券化商品で一段の価格下落が誘発されれば、個人資金の流出などを通じて、それらの商品を運用する投資ファンド等ノンバンクで、再び損失が拡大し、流動性リスクが高まる事態も起きるかもしれない。

「リスク回避の円高」の再現で日本の株価はより下落しやすいか

11日(米国時間)の米国株式市場の大幅調整を受けて、日本市場でも12日には2日連続で株価が大幅に下落している。

日本市場で注目しておきたいのは、こうした不安定な金融市場の状況の下で、対ドルで円高が進行していることだ。従来、経済や金融市場の動揺といった局面では、リスク回避で円高が進行するのが通例であった。しかし、そうした動きは、コロナショックを受けた3月の金融市場の混乱の下では、大きく変質した。金融市場の安定に関する危機感が過度に強まり、世界の多くの金融機関が一斉にドルの確保に動いたためだ。その結果、リスク回避の局面でむしろ対ドルでの円安傾向が進んだ時期もあったのである。

FRBが大量に世界にドルを供給したことで、その後、異常なドル逼迫傾向は解消された。この先も、金融市場が大幅に混乱することで世界の金融機関がドル調達に一斉に動けば、「危機下での円安」が再現される可能性はあるだろう。しかし、先行きの経済への不安から金融市場、金融機関がリスク回避傾向を強める現状下では、「リスク回避の円高」という従来の姿に戻りやすいのではないか。

この際に問題なのは、米国など海外で株価が下落する中、同時に円高が進行しやすい分、輸出企業の収益悪化から、日本での株価の調整が他国の株価と比べて大きな幅になりやすいことだ。

本格追加緩和の可能性は低いが日本銀行は再び市場の安定に配慮

この円高と株安の同時進行は、日本銀行を強く警戒させるものとなろう。対ドルで円高が進行する場合には、国民や政府から、円高阻止のための追加緩和実施への圧力が高まりやすい。また株価が下落すると、既に大量のETFを取得した日本銀行のバランスシートが毀損され、損失、あるいは経常赤字などが生じる。

ドル円レートでは1ドル100円、日経平均株価では、日本銀行が保有するETFに含み損が生じる19,500円程度がそれぞれクリティカルな水準である。現状では、為替、株式共にそれらの水準まで相応の距離があることから、日本銀行は6月15、16日の次回金融政策決定会合では、金融市場の不安定な動きを静観し、本格的な追加緩和措置を打ち出す可能性は低いだろう。

ただし日本銀行は、金融市場の動きに一層目配りする姿勢を強調すると共に、ETFと長期国債の買入れについて、決定会合での目標額引き上げ決定のようなものではなく、日々のオペレーションの中で増額を図る可能性は考えられる。

金融市場が大きく動揺した今年3月には、日本銀行の政策の軸は、2%の物価目標の達成から、金融市場の安定維持に一気に変化した感があった。その後、金融市場の安定が回復される中では、日本銀行の政策の軸は、中央銀行としては異例であるが、政府の政策を側面から支える形での企業・雇用支援へと移った。

しかし、金融市場が安定性を失う中では、日本銀行は再び金融市場の安定維持への配慮を強める必要が出てくるだろう。次回の金融政策決定会合は、外部環境に翻弄された日本銀行の政策姿勢の変化を、再び確認させるものとなるのではないか。

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