フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 各国コロナ経済対策と歴史的高水準に達する政府債務

各国コロナ経済対策と歴史的高水準に達する政府債務

2020/06/16

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

各国で企業・雇用を支援する幅広い施策

コロナ問題を受けて、各国では財政面での対応、いわゆる経済対策を積極的に推進している。それらには比較的似通った面も多くみられる。以下では、まず、各国でとられている経済対策を概観してみたい。

歳出側で最も一般的なのは、所得と雇用を支える施策であり、短期労働スキーム、解雇された労働者や仕事を失った自営業者への所得補助、失業給付の拡充、疾病手当、子ども手当の拡大などだ。

歳入側では、多くの国が一時的な減税や社会保障料の引き下げを実施している。その中には、企業の損失繰り戻しによる税還付や減価償却ルールの変更などを通じた、減税措置も含まれる。さらに多くの国々では、税や社会保障料支払いの猶予が、企業や個人に認められた。幾つかの国では、年金給付の前倒し引き出しが実施されている。また米国やオーストラリアなどでは、将来の年金受給を担保に個人の借入が認められた。

それ以外に、ほとんどの国では、オフバランスでの融資や公的資金注入、融資保証が実施されている。それは政府が直接実施するものもあれば、政府系金融機関や特別な基金を通じて実施されるものもある。多くの国では、景気対策の最大項目がこの政府による融資保証である。それは、英国では経済対策の15%、ドイツでは25%の規模に及んでいる。

コロナ問題で被害を受けた特定業種への支援

また、多くの国では、コロナ問題で特に被害を受けた業種に対して、特別の支援措置が講じられている。それらは、旅行、宿泊、航空、自動車、文化事業などである。イタリアでは、既存のセーフティネット策が、旅行業やエンターテイメント業の季節労働者に適用され、一時金の支払いなどが実施された。幾つかの国は、特定業種向けに特別な融資制度、融資保証制度を創設した。対象となったのは、ノルウェー、スウェーデンでは航空業、カナダでは農業、食品加工業である。またカナダでは、空港への借地料の減額、英国やアイスランドでは宿泊業の減税、ドイツではレストランへの付加価値税の減税がそれぞれ実施された。

フィンランド、オランダ、ポルトガルなどの国では、農業、レストラン、文化施設など特定業種への政府補助金も実施されている。アイスランドでは、国が観光振興のキャンペーンを対外的に実施した。

幾つかの国では、コロナ対策をより長期の目標と結びつけて実施している。例えば環境対策などである。フランスは、自動車買い替え支援を実施する予定だが、それは自動車業界の支援にとどまらず、環境対応車、電気自動車の購入推進策を通じた環境対策でもある。

また、特定業種に限らず、ほとんどの国では、中小企業向けの給付、融資、融資保証制度のプログラムを作っている。

先進国の政府債務のGDP比率は第2次世界大戦直後に並ぶ120%超えに

一方で、こうした各種施策は、政府債務の急激な増加という弊害を生んでいる。国際通貨基金(IMF)によると、先進国の政府債務のGDP比率の中央値は2020年に120%を上回り、第2次世界大戦直後に並ぶ水準に達する見通しである。

巨額の経済対策は、コロナショック下での企業経営と個人の生活を守るためには、どの国においても必要な措置であり、さらに、その財源を少なくとも一時的に国債発行で賄うことも、仕方ないことであろう。

しかし、国債の増発、政府債務の増加をそのまま放置すれば、それは、国債利回りの上昇を通じて、経済対策の効果を削ぐことになってしまう。また、コロナ問題が収束した後の各国経済を、さらに弱くしてしまうことにもなるだろう。

国債利回りの上昇を回避するために、政府が中央銀行に国債の買入れを求めても、それが、中央銀行の発行する通貨の信認低下を通じて、利回り上昇など金融市場の不安定化につながる惧れがある。また、そうした中央銀行の財政ファイナンス的な政策が、財政の規律を一段と緩めるとの観測につながれば、財政政策の信認も低下し、やはり利回り上昇をもたらす可能性が生じるだろう。

財源確保の議論をしっかりと進めることが重要

既に巨額の政府債務を抱える日本では、経済対策を単に国債発行で賄うと、現在の60年国債償還ルールの下では、60年先の将来世代にまで負担を強いることになる。それは、将来の需要見通しを悪化させ、中長期の成長期待の低下から、現在の企業の設備投資抑制、雇用・賃金抑制にもつながる。国債増発を通じて将来世代に負担を転嫁しても、負担は現世代へと戻り、足もとの経済の悪化につながるのである。これも、コロナ対策としての経済対策の効果を削いでしまう。

必要な対策はしっかりととる必要がある。しかし一方で、対策のコストは必ず誰かが負担することを忘れてはならない。お金は天から降ってくるものではない。政府や中央銀行が財源となるお金を作ることができると考えるのも、また大きな誤りだ。

対策と共に、負担のあり方、つまり財源の確保についても、並行してしっかりと議論を進める必要がある。コロナ対策は、できる限り現世代の中で、余裕のある人、大きな打撃を免れた人が負担する形で賄うのが良いのではないか。

そうした財源の議論をしっかりとすることが、財政に対する信認の維持を通じて、金融市場の安定に寄与し、経済対策の効果を高めることにもなるだろう。

(参考資料)
"OECD Economic Outlook", June 2020
"Borrowed time Virus relief spending drives global debt close to second world war level", Financial Times, June 15, 2020

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn