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日本銀行の新型コロナ対応の枠組みが一応の完成

2020/06/16

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予想通りに「特別プログラム」の総枠引き上げ

日本銀行は6月15、16日に開いた金融政策決定会合で、大方の予想通りに金融政策の現状維持を決めた。他方、これも事前予想通りであるが、新型コロナ対応である「特別プログラム」の総枠を、従来の75兆円から約110兆円+αへと引き上げた。

この措置は、政府が先日成立した2次補正で、無利子・無担保融資を中心とする特別融資制度の事業規模を28.2兆円と見積もったことを、反映させたものである。総枠の引き上げ幅が、28.2兆円を若干上回っているのは、信用保証が付かない民間銀行のプロパー融資についても、日本銀行が好条件で資金を出す「新たな資金供給手段」によって増加する、との見通しを反映しているためだろう。

しかし実際には、日本銀行の施策が銀行の融資を促す効果は不確実であり、総枠の引き上げには、プロパー融資拡大への希望的な観測や、「新たな資金供給手段」が融資を促す効果についての対外的なアピールが入っているだろう。

総枠引き上げは決定会合での採決事項ではない

ところで、今回、「新たな資金供給手段」を含む「特別プログラム」の総枠を引き上げたことは、決定会合での採決事項ではなく、対外公表文(声明文)にも含まれていない。この点から、総枠引き上げは、追加金融緩和措置ではないとの位置づけであることを意味する。

新型コロナ対応策が、対外公表文から外れたのは、3月以降で初めてのことである。新型コロナ対策のための枠組みの構築は、決定会合での採決事項であるが、それは一応の完成を見たということなのだろう。特に「新たな資金供給手段」は、政府の特別融資制度に乗っかった措置であり、新型コロナ対応で日本銀行が政府との協調を強くアピールする施策の中核である。これについては、今後も政府の制度の修正に従って微修正が必要となっていくだろうが、その多くはもはや決定会合での採決事項でなくなるのだろう。その結果、日本銀行は事務レベルでより迅速な修正が可能となる。

2%物価目標は事実上棚上げされた状態が続く

このように、新型コロナ対応策の枠組みは一応の完成を見た。武器は揃ったといったところだろう。今後は、それを粛々と実行していくのみである。

対外公表文の表現にもあるように、日本銀行の現在の政策の中心は、「企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持」の2つである。前者の企業等の資金繰り支援については、「特別プログラム」のもとで粛々と進めていく。金融市場の安定維持については、金融市場の動向に応じて柔軟に対応することになろう。

足もとで、日本銀行のETFや長期国債の買入れ額が小さくなっているのは、金融市場の不安定化リスクに対する警戒が低下していることの反映であり、金融市場の安定措置についても、一服感が出ているのである。

そうしたなか、2%の物価安定目標の達成は、引き続き棚上げされた状態にある。また、物価目標と結びついた政策金利の運営の方針(フォワードガイダンス)も放棄された状態が続いている。

今回の対外公表文でも、消費者物価は当面マイナスで推移するとの見通しが示され、2%の物価安定目標の達成からは距離が遠のく一方である。日本銀行が物価安定という使命(マンデート)に基づくマクロ金融政策の枠組を再構築するまでには、まだ時間がかかりそうだ(コラム「ポストコロナに政策枠組みの再構築を迫られる日本銀行」、2020年6月15日)。

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