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雇用悪化リスクを高めるハローワークの人手不足問題

2020/06/17

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一部業種での人手不足が国民生活に支障

コロナショックの下では、企業に大量の余剰労働力が生じており、それは既に休業者として顕在化している。しかし他方では、一部の業種で深刻な人手不足、ボトルネックが生じており、それが国民生活に支障を生じさせている。

良く知られているのは、感染の有無を判断するPCR検査を巡り、保健所の人員不足問題が深刻になったことだ。ここには、行政改革の影響で保険所の数や人員が削減されてきたことも影響している。全国の保健所数は、1989年度に848であったが、その後、行政改革や広域での統廃合が進んで、2020年度には469と半減近くになっている。このことが、今回のPCR検査のキャパシティを制約することに繋がってしまった。

同様の行政面でのボトルネックは、中小企業や個人事業主向け「持続化給付金」の役所での相談などでも生じており、行政サービスの遅れをもたらしている。

雇用調整助成金制度の申請の簡素化

さらに、深刻な人手不足によって事務処理が遅れているとみられるのが、ハローワーク(公共職業安定所)ではないか。特に、雇用調整助成金の支給の遅れは、中小零細企業の倒産や廃業などを生じさせ、失業者の増加に繋がりかねない。

雇用調整助成金制度は、提出書類の膨大さなどが障害となり、企業が申請に躊躇するケースが多かったとみられる。また、多くの零細企業では、申請を専門家の社会保険労務士(社労士)に依頼する必要があるが、不正受給が発覚した場合には、申請に協力した社労士も連帯責任に問われることから、社労士が雇用調整助成金の申請業務を請け負うことを躊躇することも生じているとされる。これも申請の障害となっている。

手続きの煩雑さから申請が滞っていたため、厚生労働省は5月19日までに申請書の記載項目や提出書類を大幅に減らした。また、オンラインでの申請も認めるようになった。

雇用調整助成金の申請はまだ十分ではない

それらの措置も影響してか、雇用調整助成金の申請は足もとで増え始めてきた。6月15日時点で累積の申請件数は、17万4,376件である。

他方で、労働力、ハローワークで雇用調整助成金制度について企業から受けた相談は40万件以上に上っている。それらが潜在的な申請需要であるとすれば、そのうち実際の申請件数に繋がったのは、まだ半分にも満たない。

従業員を休業扱いとしながらも、雇用調整助成金を申請せず、助成金を受け取らない企業は、その分休業手当の負担が高まり、それが経営を圧迫することで倒産、廃業に繋がる惧れがある。そうなれば、休業者は解雇され、失業者となろう。他方で、雇用調整助成金を申請しない企業の中には、従業員に自宅待機を命じながら、休業手当を支払わないケースもある。その場合、その従業員は収入がない状態が続いてしまう。

こうした問題を回避するためにも、雇用調整助成金の申請を強く促すことが引き続き重要である。

「ハローワーク崩壊(ハロワ崩壊)」との声も

他方、申請された後の事務処理のスピードにも問題はあるだろう。雇用調整助成金の累積支給決定件数は、6月15日時点で10万3,211件である。件数は着実に増えているが、なお申請件数の6割弱にとどまっている。その一因として考えられるのが、冒頭で述べたハローワークでの深刻な人手不足だ。一部では「ハローワーク崩壊(ハロワ崩壊)」とも呼ばれている。

実際、沖縄、岐阜などの労働局は、ハローワークで雇用調整助成金や事実上の休業者に失業手当を給付する休業者支援制度での業務のために、今月に入って、任期付き常勤職員を募集し始めた。期間は今年7月から来年3月末までだ。

失業者に仕事の紹介などを行なうハローワークが、自ら求人を行なうのは興味深いが、ハローワークの人手不足がこれによって緩和され、雇用調整助成金制度や新たに導入される休業者支援制度による給付が進むことを期待したい。

他方、迅速な給付を促す観点からは、ハローワークの個々の職員の業務の迅速化も進めることが必要だろう。常設制度である雇用調整助成金制度は、伝統的に、不正受給を防ぐという点に大きな力点が置かれてきたのではないか。それらの資金が、企業や雇用が負担する雇用保険料から支払われることを考えれば、不正受給を防ぐことは重要であることは確かだ。それがゆえに、申請する企業には膨大な記入書類、証明書類の提出が求められてきたのである。

職員の意識改革も必要か

しかし、今の危機的状況のもとでは、不正の摘発よりも迅速な給付をより重視する必要がある。提出書類の簡素化は、こうした方針を反映している面があるのだろう。

ところが、ハローワークの職員はどうだろうか。引き続き、不正防止に力点を置いた業務を続けているのではないか。厚生労働省が提出書類の簡素化を実施して以降も、規定以上の書類の提出を企業に求めるハローワークがあり、問題となっている。これも、ハローワークでは、不正防止に重点が置かれた業務が進められていることの証左ではないか。

不正受給を正当化することはできないが、詳細な書類のチェックや実地調査などは後に実施し、まずは迅速な給付を優先することが、今の局面では強く求められるだろう。

ハローワークの職員は、従来通りに不正防止に力点を置いた業務を続けているとすれば、それは、しっかりと職務を果たすという真摯な態度に裏打ちされたものだろう。そこで、現在は迅速さを優先する業務スタイルに一時的に変えるように、職員に対して上部組織から強く働きかけることが必要となる。

雇用調整助成金制度の機能を高めるためには、提出書類の簡素化やオンライン申請に加えて、職員の意識改革を進めることも重要なのである。

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