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経済制裁、コロナ禍で進む北朝鮮の経済疲弊と瀬戸際外交のリスク

2020/06/18

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繰り返される北朝鮮の「瀬戸際外交」

北朝鮮は、16日に南北共同連絡事務所を破壊する一方、17日には南北融和の拠点であった開城(ケソン)と金剛山に軍部隊を展開することを表明するなど、韓国に対する敵対姿勢を強めている。2000年以降進んできた南北融和の気運は、一気に後退し始めている。

5月末の脱北者団体による北朝鮮を批判するビラの散布が、北朝鮮による対韓国強硬姿勢のきっかけとなったが、それはいわば口実の側面が強い。北朝鮮の対韓国強硬姿勢の背景には、北朝鮮経済の悪化がある。そのもとで、韓国からの経済協力事業の再開を引き出す、あるいは経済制裁の解除に向けた米国との交渉再開のきっかけにしたい、という北朝鮮の思惑があると見られる。

一連の動きは、いわば従来から繰り返されてきた「瀬戸際外交」の一環と言えるだろう。南北間での緊張の高まりを受けても、金融市場が目立った反応を示していないのは、北朝鮮の瀬戸際外交に慣れてしまったからだ。

経済の悪化と外貨不足が深刻に

北朝鮮は2017年の国連安保理決議で、石炭や鉄、鉄鉱石、繊維、海産物の輸出を全面禁止された。これによって合法的な輸出の9割を失ったのである。さらに、2019年末までに海外で働く北朝鮮人労働者が本国に送還され、外貨収入の道が断たれた。加えて、新型コロナウイルス対策で1月末には中国との国境を閉鎖したため、対外貿易の95%を占める中国との間の貿易は止まってしまったのである。

大手格付け会社のフィッチは、2020年の北朝鮮の成長率を-6%と予想している。これは23年前の1997年の-6.5%以来の低い成長率だ。

制裁措置によって外貨不足が深刻化しているとの観測も生じている。読売新聞は、北朝鮮の外貨が、早ければ2023年にも枯渇する可能性があると、日米韓協議筋が分析していることを報じている。

国内企業、富裕者の負担が高まる

経済の悪化にもかかわらず、北朝鮮政府は軍に巨額の予算を割り当て続けている。非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン」の推計によると、北朝鮮は2019年に、核兵器に6億ドル(約645億円)を費やしたという。こうした政策が、北朝鮮政府の財政悪化をもたらしている。

財政の悪化に直面する北朝鮮政府は、同国では珍しい国債の発行を計画しているとフィナンシャル・タイムズ紙が報じている。規模は最大で国家予算の60%に及ぶというが、それを金主(トンジュ)と呼ばれる新興富裕層に買わせる計画だという。しかし、その国債は償還されるかどうかは保証されておらず、事実上の増税となる可能性があるようだ。

さらに北朝鮮政府は、企業関係者や富裕者に対して、保有する外貨を政府に渡すよう迫っているという。それは、指導者への忠誠を表すための自発的な貢献とされつつも、事実上は強制的な徴取である。

瀬戸際外交加速のリスク

このように、経済制裁とコロナ問題の下で北朝鮮経済が一段と疲弊し、物資の配給が遅れる下で、政府が企業や国民への負担を強いると、潜在的に国内での不満が高まる可能性があるだろう。その不満をそらす目的で、政府は国民に一層の負担を求める形で軍事力の一段の増強と、瀬戸際外交をさらに強硬に展開していく可能性があるのではないか。

比較的友好な関係を築いてきたトランプ大統領が11月の大統領選挙で敗れる可能性を意識すれば、それまでに経済制裁緩和への足掛かりを掴むために、今後は北朝鮮が瀬戸際外交を一気に加速させることも考えられる。

北朝鮮が、このような自暴自棄な瀬戸際外交を展開し始めれば、金融市場でも大きな地政学リスクとして意識せざるを得なくなるだろう。

(参考資料)
「北朝鮮、国債発行でエリート層から資金を徴収」、フィナンシャル・タイムズ紙、2020年6月1日
「北、23年にも外貨枯渇か 日米韓協議筋分析 韓国に強硬 焦りの表れ」、東京読売新聞、2020年6月16日

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