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海外の事例に見る感染アプリの有効性と課題

2020/06/22

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6月19日に政府は「接触確認アプリ」を導入

都道府県をまたぐ移動制限が、6月19日に全面的に解除された。同時に、感染拡大を抑制する新たな手段として政府は、スマートフォンを通じて、感染者と濃厚接触した可能性のある人に注意を促す「接触確認アプリ」を同日に導入した。

同様のアプリは、海外でも多く導入されているが、日本ではプライバシー保護に配慮して、中国や韓国のようにGPS(衛星利用測位システム)による位置情報は用いずに、近距離無線通信(ブルートゥース)で利用者同士が接触した記録をやり取りする。

このアプリが入ったスマートフォン同士が1メートル以内に15分以上いると、互いのスマートフォンに接触した相手として記録される。その後、利用者の感染が確認された場合、感染者がその情報を相手に通知することに同意してシステムに入力すると、もう一方の利用者に「感染者と濃厚接触した可能性があります」との通知が届く。

利用者には、帰国者・接触者相談センターへの相談方法なども伝えられる。情報はスマートフォン内のみに記録され、政府はそれを把握しない。また、個人の特定につながるような情報は記録されず、14日間が経過すると接触情報は自動的に削除される。

現在は、保健所が感染者本人や家族から聞き取りを行って濃厚接触者を割り出している。しかし、本人が情報を提供することを嫌がったり、また、本人の記憶があいまいだったりすることも多い。保健所の人手の確保も難しいことが少なくないだろう。同アプリの導入は、こうした問題の解決に役に立つことは間違いない。

海外ではアプリ普及に大きな課題

最大の課題は、アプリの導入が十分に広がるかどうかであろう。英オックスフォード大の研究では、こうしたアプリが感染拡大抑止に有効に働くためには、全人口の56%がアプリを導入する必要があるとしている。

厚生労働省のよると、アプリ導入から1日が経過した6月20日の正午時点で、アプリのダウンロードの合計は約155万件に達したという。良いスタートを切ったようにも見えるが、導入直後は増えやすい点は考慮しておく必要があろう。実際、6月21日の17時点での累積ダウンロード数は241万件と、2日目に勢いはやや落ちている。

日本と近い設計の接触確認アプリを6月16日に導入したドイツでは、初日に650万件ダウンロードされたという。これは、ドイツの総人口の約8%に達する。しかし、その後は伸び悩んでいるようである。

「ワーレン研究グループ」が6月10日に行った世論調査によると、この追跡アプリをダウンロードする意思があるのは、全体の41%にとどまった。46%が使用しないと回答し、スマートフォンを持っていない割合は8%だった。また、3月下旬に世界に先駆けて運用を始めたシンガポールでも、アプリの普及率は現在でも3割程度と低迷している。

こうした点を踏まえると、日本ではLINEの普及率にも匹敵する6割のアプリの普及率を達成するのは、かなりハードルが高そうだ。日本の「接触確認アプリ」は個人情報保護に十分に配慮した設計となっているが、それでも利用者の間にはプライバシー侵害の懸念が払しょくできないことが、普及の妨げとなる可能性がある。

プライバシー保護との両立は簡単でない

自治体にもよるが、感染者はその性別や年代、職業などが発表されることがある。感染者が過去2週間以内に間近に接した接触者にアプリで感染を通知すると、ネット上の情報を収集するなどして他のアプリの利用者によって個人が特定されてしまうリスクは、完全には排除できないだろう。スマートフォンの情報が、他の目的に使われないように、もう一段の配慮をする、あるいは第三者機関がチェックするような仕組みを作ること等も、今後の検討課題となるかもしれない。

このアプリは、利用者が感染のリスクを知ることには役に立つ。しかし、多くの利用者が最も強い関心を持っているのは、感染のリスクを回避することではないか。複数の地方公共団体では、飲食店や公共施設の利用者がQRコードを読み込むと訪れた日時がシステムに記録され、複数の感染者数が出た場合には、同時期に訪れた人にいち早くメールやLINEで通知するシステムが導入されている。

例えば、全国の多くの施設で同様の機能が、近距離無線通信(ブルートゥース)を用いてこの「接触確認アプリ」に組み込まれていけば、感染リスクの回避に関心を持つ利用者への普及を後押しすることになるのではないか。ただしその場合でも、個人の行動が外部に漏れることがないかどうかというプライバシーの懸念は残る。

有効な「接触確認アプリ」の構築とプライバシーの保護とを両立させることは、容易ではないことは確かだろう。

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