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早まる感染第2波のリスクと米国でのマスク論争

2020/06/25

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感染第2波で景気底這いが長期化するリスク

新型コロナウイルス感染の第2波への懸念が、世界の主要国で高まっている。日本では、6月24日の東京都の新規感染者数が55人と5月25日の緊急事態宣言解除後で最多となり、感染第2波への警戒が強まっている。

北半球では、夏場にかけて感染拡大はいったん収束するが、気温と湿度が低下する秋から冬にかけて第2波のリスクが高まる、と当初は広く考えられていた。ところが実際には、夏に向かうこの時期に感染者の再拡大が多くの国で見られ始めている。当初考えていたよりも大分早いタイミングで、第2波のリスクが生じていると言えるだろう。

こうした動きは、先行きの経済の見通しにも影響を与えている。経済協力開発機構(OECD)は、世界のGDPが今年4-6月期を底に回復していくシナリオと、7-9月期に回復に転じたGDPが、感染第2波のもとで10-12月期に再び下落に転じる2番底のシナリオの双方を、標準シナリオとして先般示している。

しかし、足もとでは第2波のリスクが前倒しで生じていることから、7-9月期のGDPがほぼ底這いで推移する「U字型」シナリオの可能性が高まっているように思われる。しかも、第2波が本格化すれば、経済は長らく底這い状態を続け、底離れの時期が見えなくなってしまう「L字型」のシナリオの可能性も出てこよう。

各国で感染再拡大の動き

世界を見渡すと、感染者が一時はかなり減少した中国、韓国でも、再び感染者数の増加が見られる。中国の首都・北京では、4月16日以降56日間に渡って新規の感染者は確認されなかった。ところが6月11日に感染者が再確認されて以降、感染が深刻だった2月上旬を上回るペースで新規感染者が増加し始めた。当局は「戦時状態に入った」として、大規模な移動の規制やPCR検査の強化を実施している。

ドイツの首都ベルリンでも、数週間着実に減少していた新規感染者数が再び増加に転じ、4月の水準に逆戻りしてしまった。23日に州政府は、マスク着用義務の違反者に罰金を科す方針を明らかにした。ノルトライン・ウェストファーレン州では、集団感染が生じた食肉工場がある自治体が、再びロックダウンされた。

ポルトガルでも新規感染者が急増しており、首都リスボンでは6月22日に、10人を超える集まりがすべて禁止され、バーや店舗の営業時間は午後8時までに再び制限された。

英国の南部サリーの小学校でも感染者が見つかり、6月18日から2週間の予定で閉鎖された。スロベニアでも新規感染者が増え、一部の国からの入国制限を再び強化している。

感染第2波のリスクを否定するトランプ政権

ところで、第2波のリスクが高まる中、感染対策が最も混乱しているとの印象が強く、大いに懸念されるのが米国だ。それは、感染対策が政治闘争に巻き込まれているためでもある。

経済再開に慎重だったニューヨーク州など北東部の州では、感染状況に改善傾向がみられるが、一方で、早期に経済活動を再開したフロリダ、テキサス、カリフォルニア、アリゾナなど南部、西部、中西部の18州では、感染が増加傾向にある。そのうち12州では、6月21日までの1週間以内に1日当たりの感染者数が過去最多を記録している。

米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、23日に米国内で新規感染者の「憂慮すべき急増」が見られるとしたうえで、「サンベルト地帯と呼ばれる南部の州で感染拡大が続いている状態から判断すると、夏季に感染が沈静化する可能性は低い」と述べている。各州の感染状況の違いを考慮すると、拙速な経済の再開が感染の再拡大を招いている可能性が高いように見受けられる。

ところが、トランプ政権は、感染第2波の懸念を強く否定し、経済活動の再開を続ける考えを維持している。ペンス副大統領は6月16日の米ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿して、メディアが報じる感染第2波の懸念は誇張されていると批判し、経済再開を続ける姿勢を鮮明にした。トランプ大統領は17日に、感染者数が増加しても「米国を再び閉鎖するつもりはない」と明言している。また、米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は22日に、フロリダ州などで新型コロナウイルスの感染が急増しているものの、感染第2波は起きていないとし、全国的な都市封鎖が再び導入されるとは考えにくいと述べた。

党派色が強い感染対策に懸念

早期の経済活動の再開によって感染者の増加を招いているのは、経済活動を重視する共和党の知事がいる州が多い。またそうした州は、感染が再拡大しても、規制の再導入などの措置に総じて否定的である。

感染対策で意見が分かれる象徴的な事例となっているのが、マスク着用の義務化である。米国では「マスク論争」が盛んになってきているのである。

共和党を支持する保守層は、個人の自由の侵害になるとして、マスク着用の義務化への抵抗が強い。トランプ大統領も、人前でマスクを着用する姿を見せたがらない。対照的に、民主党大統領候補のバイデン前副大統領は、黒いマスク姿で公の場に登場している。マスクの着用の有無が、共和党と民主党の間の対立の象徴ともなっているのである。

そうした傾向は地方にも広がっており、民主党員が州知事を務めるニューヨーク州やミシガン州などは、外出時のマスク着用を義務づけている。多方、共和党員のテキサス州・アボット知事は、地元自治体の要請にもかかわらず、州全域でのマスク着用の義務化には踏み切っていない。

このように、米国では、国と州、州と市町村などの間で、コロナへの対応が大きく分かれ、さらに対立が強まっている。感染対策に統一感が得られておらず、各行政組織の足並みが揃っていないことが、本格的な感染第2波を回避できないリスクを高めているようにも見える。

11月に大統領選挙を控えているとはいえ、感染対策では党派、あるいは主義主張の違いを超えて、各行政組織は冷静な判断を下し、さらに協調して欲しいところだ。それができなければ、本格的な第2波の到来とともに、米国経済には大きな下方リスクが生じ、世界経済全体のリスクを高めることにもつながってしまうだろう。

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