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株価高騰を警戒し始めた中国当局と香港を通じた海外資金の流入

2020/07/15

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中国政府は株高支援から牽制へと姿勢を急転

コロナショックで世界経済が低迷を続ける中、中国本土では株価の上昇が際立っている。上海と深センの株式市場に上場する有力企業300銘柄で構成するCSI300指数は、現時点で年初の水準を16%程度も上回っている。

米国、特にナスダック市場での株価上昇は、自宅待機で暇を持て余した個人投資家が、無料株取引アプリ「ロビンフッド」を使って株式投資を増やしているため、とも言われているが、中国での株高も個人投資家の影響によるところが大きいと見られている。

米国メディアは、小口の個人投資家の資金が、中国本土の株式市場に流れ込んでいると指摘している。また、中国政府の意向を映した中国政府系メディアの宣伝がそうした投資を強く後押ししている、との見方も紹介している。

中国国営メディアの中国証券報は7月6日の1面の論説で、「健全な強気相場」を育成することが今こそ重要だ、と訴えた。

ところが、それからわずか3日後の7月9日に同じメディアは、投資家はリスクを管理し、合理的な投資を行う必要がある、とし、一転して投資家に自制を促す論説記事を掲載したのである。また経済誌「財新」は、中国証券監督管理委員会(証監会)が投信会社に対する「窓口指導」で、新たなファンドの募集規模を300億元に制限するよう求めた、と報じている。

この3日間のうちに一体何が起こったのかは不明であるが、今や中国政府は、株価の行き過ぎを警戒していることは明らかだ。

2015年の株価暴落の苦い経験

おそらくその背景には、株価が急騰した後に一気に急落した、2015年の経験を繰り返さない、という狙いがあるのだろう。実際、中国証券報の論説記事は、「2015年の異常な市場のボラティリティという悲劇的な教訓は、まだ記憶に新しい。健全で繁栄する株式市場を正しい姿勢で築いていく必要があるとの警鐘を鳴らしている」と指摘している。

2014年6月から2015年6月までに、上海の主要株価指数は約150%上昇した。その際にも、政府系メディアが株価上昇を煽ったとされている。しかし、その後株価は暴落し、上昇分の半分程度を一気に失ったのである。

当時は、違法な証券担保融資を背景に株価が急騰した側面もあった。そこで、こうした経験も踏まえて、証監会は7月9日に、258種類の違法な証券担保融資サービスプラットフォームとその運営会社の社名を公表している。これらは、ネット、アプリ、SNSを利用して証券を担保に融資を行うが、融資額は担保価値の最大で10倍に及ぶ。

香港を通じた海外からの資金流入が株式市場のコントロールを困難に

最近まで、当局が株価の上昇を支持してきたのは、政府の適切な対応によって、中国経済がコロナショックからいち早く立ち直っている証拠として、株価の上昇を国民と海外にアピールする狙いがあったのだろう。

他方で、ひとたび株価が暴落すれば、それは国内の社会不安を煽り、場合によっては政府批判につながる可能性もあることから、一転して株価の急騰を抑える姿勢へと方針を転換したと見られる。

しかし、こうした政策が上手くいくかどうかは不明である。足もとでの株価高騰は、国内投資家の株式投資拡大だけでなく、海外からの資金流入によるところもあるからだ。香港のストックコネクト(株式市場接続)を利用した海外投資家による中国本土株購入は、7月当初の5営業日でネット550億人民元(79億ドル)に及んだという(Windによる)。

過去5年程度の間に、海外資金を中国本土に呼び込む入り口(ゲート)としての、香港の役割は格段に上昇している。それがゆえに、国家安全法施行をきっかけに、金融センターとしての香港の機能が低下することが起これば、中国経済にとっても打撃である。

ただし現時点では、海外との資金の出入口という香港の機能が高まり、香港を通じて海外資金が中国本土に大量に流入していることが、当局による株式市場のコントロールを以前よりも難しくしているのである。

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