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欧州復興基金は欧州の財政統合に向けた一歩となるか

2020/07/21

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欧州復興基金合意への流れを作ったドイツの方針転換

7月21日の日本時間午後に、欧州連合(EU)の首脳会議は、7,500億ユーロ(約92兆円)の欧州(コロナ)復興基金で合意した。会議は17日から当初2日間の予定で始まったが、5日目まで延長されて、現地時間の未明になってようやく決着した。

合意成立は事前予想通りであり、金融市場に大きなサプライズをもたらすものではないが、その歴史的な意義は非常に大きい。コロナショックという困難に直面し、EU各国が結束の強さを示すことができたことを示すものと言える。何よりも重要なのは、EUが共通債券を発行する、つまり初めて債務の共有化に踏み切ることになった点である。

共通債券の発行については、ドイツがそれ以前の慎重姿勢を突如転換し、5月18日にフランスと共に共同提案をした時点で、ほぼ流れは決まった感があった。そこでは、5千億ユーロの巨額の「復興基金」を設立することと、その財源を加盟国の共通化した債務とすることが明記された。

この提案をさらに拡充する形で、EUの執行機関である欧州委員会は、補助金と融資からなる7,500億ユーロの復興基金、補助金部分5千億ユーロを賄う共通債券の発行を提案した。財政規律を重視する「倹約4か国」と呼ばれるオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンは、自国の負担が増加することや、スペイン、イタリアなど復興基金によって大きな恩恵を受ける国にモラルハザードをもたらす点を挙げ、これに反対した。

最終段階では、総額7,500億ユーロで、返済する必要がない補助金部分と融資部分の割合をどうするかという分かりやすい交渉に落とし込まれていった。最終的には、補助金が3,900億ユーロ、融資部分が3,600億ユーロと、半々近い割合で合意が成立した。

モラルハザードを防ぐことができるかが鍵

復興基金によって最も大きな額の補助金、低利融資を受けるのがイタリアだ。補助金約820億ユーロ、低利融資約1,270億ユーロと、全体の28%程度を占めると予想されている。

半分が補助金で構成される復興基金で合意が成立したことは、イタリア、スペインなど、コロナ問題の影響を大きく受けた周縁国の経済の支援が強化されるとともに、財政リスクの軽減を通じて欧州国債市場の安定に大きく寄与するだろう。またこれは、欧州債務危機再燃のリスクを減じるものと評価できる。

復興基金による支援に甘んじ、支援を受ける国が財政健全化や構造改革を怠れば、復興基金、あるいはEUの共通債券の発行は失敗だったとの評価が加盟国に広がり、この枠組みは一時的で終わってしまうのではないか。

逆に、支援される国が、強い自制を利かせて、支援の受け入れと共に構造改革を進めていけば、加盟国内で枠組みの信頼性は高まっていくだろう。その際には、財政面での統合が進み、欧州統合が一層深化することにつながっていくのではないか。

今回の復興基金の合意は歴史的な出来事であるが、それ以上に復興基金の枠組みが上手く機能するかどうか、支援される国のモラルハザードを回避するように運営していけるかどうかは、将来の欧州統合の深化にとって、重要な試金石となるだろう。

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