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コロナショックの日本経済へ後遺症が長期化する条件は何か

2020/08/03

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1-3月期実質GDP2次速報改定値は年率-2.2%と改定前と同水準

内閣府は8月3日に、2020年1-3月期GDP統計2次速報の改定値を発表した。実質GDPは前期比年率-2.2%と、改定前と同水準だった。事前予想の平均値は、年率-2.8%程度であった。

2次速報の推計に用いられる法人企業統計は、新型コロナウイルス問題で回答率が低下したため、7月27日に改めて確報値が公表された、今回のGDP統計2次速報の改定値には、これが反映されている。それによって影響を受けたのは、設備投資と在庫投資である。

2次速報の改定値で、実質設備投資は前期比+1.9%から+1.7%に下方修正された。1次速報値は同-3.4%だった。法人企業統計の確報値で、1-3月期の名目設備投資は前年同月比で+4.3%から同+0.1%へ、前期比(季節調整値)で+6.7%から同+3.6%へと大幅に下方修正された。法人企業統計の改定に示された程には設備投資がGDP統計2次速報の改定値で大幅に下方修正されなかったことが、実質GDPが事前予想を上回った主因だ。

4-6月期の成長率はリーマンショック時を上回る歴史的な落ち込みに

GDP統計についての次の注目は、8月17日に発表される2020年4-6月期1次速報値である。日本経済研究センターの集計(7月9日発表)によると、同期の実質GDPは、予測機関の平均値で前期比年率-23.5%だ。現在の系列で遡れる1994年以降で最大の下落を記録したのが、リーマンショック時の2009年1-3月期の前期比年率-17.8%であるが、それを上回る下落となる可能性が高い。

より重要なのは7-9月期の成長率

新型コロナウイルス問題が、GDPの歴史的な落ち込みを確認する機会として、4-6月期1次速報値は確かに重要ではある。しかし、新型コロナウイルス問題が日本経済に与える中長期的な影響を考える上では、11月16日に発表されるGDP統計7-9月期1次速報値の方がより重要である。

感染拡大や緊急事態宣言を受けた経済の落ち込みが1四半期程度で済み、7-9月期のGDPが4-6月と同程度の幅で回復すれば、先行きの日本経済への影響、いわゆる後遺症は軽微で済むだろう。しかし、その可能性はほぼなくなっている。

日本経済研究センターの集計(7月9日発表)によると、7-9月期の実質GDPの予測値の平均は、前期比年率+9.4%である。4-6月期のGDPの下落率のちょうど4割分を戻すことになる。

筆者は、2020年4-6月期1次速報値は前期比年率-28%程度と市場予想を下回るより大きな落ち込みとなる一方、7-9月期の成長率は同+5~+8%程度とより低めの成長率になると、現時点では考えている。後者については、全国ベースでの緊急事態宣言が再び発動されないことが前提であるが、8月あるいは9月に再発動となれば、7-9月期の成長率はさらに下振れ、個人消費はマイナスの成長率を続ける可能性も出てくる(コラム「緊急事態宣言の再発動で個人消費はどの程度悪化するか」、2020年7月29日)。

需要と供給の悪化がスパイラル的に進む

仮に、7-9月期の成長率は同+5~8%程度となれば、4-6月期の落ち込み幅の2~3割にとどまる。これでは「経済は持ち直しに転じた」とは言えず、「底に達した後もなお底這い状態を続けている」との表現が妥当であろう。

その場合には、4-6月期に大幅に悪化し拡大した需給ギャップ(潜在GDP-現実のGDP)が、7-9月期以降も高水準を維持することになる。高水準の需給ギャップが長く続けば、企業にとっては過剰な設備と過剰な雇用を抱え続けることになる。それは、企業の収益を大きく損ねることから、企業は設備投資の抑制とともに、雇用の削減に本格的に着手することになるだろう。それは、ストック調整の本格化だ。またそれらは、経営環境の悪化に耐えられなくなった企業の倒産や廃業によっても促される。

需給ギャップの面積に注目

このような経路で先行きの設備投資と個人消費の見通しが引き下げられると、企業は再び設備と雇用の抑制・削減を進めることになる。このように需要と供給(設備・雇用といったストック)の悪化がスパイラル的に進んでいくことで、経済の調整は長期化してしまうのである。

コロナショックが、日本経済にどの程度の後遺症を与えるかは、7-9月期とそれ以降の回復ペースに大きく依存する。重要なのは、経済の供給力を示す潜在GDPと現実のGDPの差、つまり需給ギャップである。

高水準の需給ギャップが長く続けば、縦軸を需給ギャップ、横軸を時間とした場合の需給ギャップの面積が大きくなる。その面積こそが、コロナショックによって直接的に失われる経済損失規模を表しているのである。そして、それが広いほど、コロナショックが日本経済に与える後遺症はより大きく、より長期化することになる。

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