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4-6月期実質GDPは歴史的悪化も7-9月期が決定的に重要に

2020/08/17

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4-6月期GDPは予想通りの歴史的な落ち込み

内閣府が8月17日に発表した2020年4-6月期GDP統計1次速報で、実質GDPは前期比年率-27.8%(季節調整値、以下同様)と、歴史的な悪化を記録した。事前予想の平均値は年率-26.6%程度だったことから、概ね予想通りの結果であったと言える。

コロナショックで大幅に悪化した4-6月期実質GDP成長率は、リーマンショック後の2009年1-3月期の前期比年率-17.8%を下回り、1994年から始まる現在の四半期GDP系列、あるいは1980年から始まる旧系列では最大のマイナス幅となった。それ以前の旧系列との単純な比較はできないとはいえ、戦後最大の悪化になったと言えるだろう。

実質個人消費は前期比-8.2%と事前予想の平均値-6.9%程度を下回った。他方、設備投資が前期比-1.5%と事前予想の平均値-4.6%程度を上回ったことなどから、成長率全体は概ね予想通りの結果となった。実質輸出の前期比-18.5%も、概ね事前予想通りであった。

個人消費の悪化は決して一過性では終わらない

4-6月期の実質GDPの落ち込み分のうち59%と6割程度が、個人消費の減少による。そして40%が輸出の落ち込みによる。コロナ問題による内外での消費の悪化が主に反映されているのである。悪化が消費と輸出に集中している点が、通常の景気後退時とは異なる今回の景気悪化の特徴だ。

個人消費の内訳を見ると、サービス消費が前期比年率-42.0%とほぼ半減している。サービス分野に偏る不要不急の消費の相当部分が、4-6月期に消滅したことを裏付けていよう。

7-9月期以降の個人消費を占ううえで注目されるのが、4-6月期の実質雇用者報酬である。これは、雇用・所得環境の急激な悪化を映して前期比-3.7%とやはり歴史的な落ち込みとなった。実質雇用者報酬の悪化は、予想よりも早めに生じている。リーマンショック後の2009年1-3月期には、実質雇用者報酬は前期比-2.0%であったが、今回はそれを2倍近く上回る悪化である。

V字型回復の可能性はほぼ無くなった

4-6月期の個人消費の悪化は、コロナ問題に関連した不要不急の消費の抑制に集中したが、雇用・所得環境の悪化を受けて、消費の抑制はこの先より広範囲に広がっていく可能性が高い。これが、7-9月期以降の経済活動の持ち直しを大きく制約するだろう。そのため、輸出と在庫投資に一定程度回復が見られるとしても、7-9月期あるいは10-12月期の成長率は低めにとどまるだろう。もはや、V字型回復となる可能性はほぼ無くなったと言える。

ところで、政府の経済対策、日本銀行の金融緩和措置は、今回のGDP統計に表れた4-6月期の歴史的な経済の悪化を前提に既に実施されているものだ。そのため、今回のGDP統計が、追加措置の直接的なきっかけとはならないだろう。

より重要なのは7-9月期の成長率

コロナショックの短期的な経済への影響の大きさを推し量るうえで、この4-6月期1次速報は重要だ。しかし、コロナショックが日本経済に与える中長期的な影響を考える上では、11月16日に発表されるGDP統計7-9月期1次速報の方がより重要である。

感染拡大や緊急事態宣言を受けた経済の落ち込みが仮に1四半期程度の長さで終わり、7-9月期GDPが4-6月GDPの下落分を一気に取り戻す幅で回復するのであれば、日本経済にとってコロナショックの後遺症は軽微で済むだろう。しかし、その可能性はほぼ無くなったと言える。

日本経済研究センターの集計(8月13日発表)によると、7-9月期の実質GDPの予測値の平均は、前期比年率+13.3%である。4-6月期GDPの下落率の概ね半分(48%)程度戻すことになる。

筆者は、7-9月期の成長率は同+7%程度と、より低めの成長率になると現時点では考えている。これは、全国ベースでの緊急事態宣言が再び発動されないことが前提であるが、仮に9月に再発動となれば、7-9月期の成長率はさらに下振れ、個人消費はマイナスの成長率を続ける可能性も出てくる(コラム「緊急事態宣言の再発動で個人消費はどの程度悪化するか」、2020年7月29日)。

通常の景気後退とは異なる経済の悪化

仮に、7-9月期の成長率が前期比年率+7%程度となれば、4-6月期GDPの落ち込み幅のちょうど4分の1にとどまる。これでは「経済は持ち直しに転じた」とは到底言えず、「とりあえず底には達したものの、その後もなお底這い状態を続けている」との表現の方が妥当であろう。

ちなみに、リーマンショック後の2009年4-6月期の実質GDPは前期比年率+8.6%と、前期の落ち込み幅のちょうど半分を取り戻す増加率となった。今回はそれを大きく下回る可能性が高いだろう。

コロナ問題による今回の経済の悪化は、消費者が感染リスクを警戒するため、飲食店、旅行、テーマパークなどに行きたいけど行かない、あるいは感染拡大の抑制を図って関連業種が休業を強いられるために行けない、という供給制約から始まった点に大きな特徴がある。

需要は元の水準には戻らない

感染リスクを減らすために、消費者は消費行動を構造的に変化させ、こうしたサービス消費を恒常的に一定程度抑えることになるだろう。その結果、仮に感染問題が緩和されても、需要は元の水準には戻らないのである。この点が、通常の景気後退とは大きく異なる。

さらに、自動車購入の場合などと異なり、ひとたび供給制約が解消されると、それまで抑えていた消費が一気に噴き出し、消費の遅れを取り戻すといった、いわゆる「ペントアップ・ディマンド」は、飲食店、旅行、テーマパークなどのサービス消費には生じにくい。毎日旅行に行く、毎日テーマパークに行く人はいないからだ。そのため、コロナショックで永遠に失われる需要は少なくないのである。

需要と供給の悪化がスパイラル的に進む

また、コロナショックに限らず、供給制約から始まる経済の悪化は、早晩、需要側にも及ぶことで、需要と供給の悪化がスパイラル的に進むのが通例である。コロナショックの場合で言えば、休業を強いられた企業が雇用・賃金調整を行うことで、労働者の雇用・所得環境全体が悪化する。そのため、休業を強いられた業種以外も含めて個人消費全体が下振れる。それがまた広範囲な雇用・賃金調整につながる、といった経路である。

重要なのは、経済が大きく落ち込んだ後の持ち直しの程度が弱いほど、需要と供給のスパイラル的悪化はより深刻になることだ。

7-9月期の成長率が、4-6月期の成長率の落ち込み幅の4分の1程度の回復にとどまれば、4-6月期に大幅に悪化し拡大した需給ギャップ(潜在GDP-現実のGDP)が、7-9月期以降も高水準を維持することになる。そして、高水準の需給ギャップが長く続けば、企業にとっては過剰な設備と過剰な雇用を抱え続けることになる。それは、企業の収益を大きく損ねることから、企業は設備投資の抑制とともに、雇用の削減にも本格的に着手することになるだろう。ストック調整の本格化だ。それらは、経営環境の悪化に耐えられなくなった企業の倒産や廃業によっても促されるのである。

需給ギャップの面積に注目

このような経路で、需要と供給(設備・雇用といったストック)のスパイラル的悪化が増幅されることで、経済の調整は長期化してしまうのである。

コロナショックが、日本経済に中長期的にどの程度の後遺症を与えるのかは、7-9月期とそれ以降の回復ペースに大きく依存する。重要なのは、経済の供給力を示す潜在GDPと現実のGDPの差、つまり需給ギャップの動向なのである。

高水準の需給ギャップが長く続けば、縦軸を需給ギャップ、横軸を時間とした場合の需給ギャップの面積が大きくなる。その面積の大きさこそが、コロナショックによって直接的に失われる経済損失の規模を表しているのである。

そして、その面積が広いほど、コロナショックが日本経済に与える後遺症はより大きく、より長期化することになる。

日本経済は全治5年に

急増した休業者が減少するなど、コロナショックが雇用情勢に与える当初の大きなショックは一巡しつつあるようにも見える。自動車を中心に、生産活動の持ち直しの動きも一部に見られ始めている。

しかし、巨額の需給ギャップが続く中、企業が持ちこたえられなくなって雇用の調整を本格化させる、あるいは倒産、廃業が増加し、それによって解雇が本格化するのは、まさにこれからである。

筆者は、2019年10-12月期からマイナスに陥った実質GDPが、それ以前の水準を取り戻すのは、2024年10-12月期になると予想している。日本経済は失われた5年、あるいは全治5年の状況に陥るのである。

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