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この先の持ち直しペース鈍化でさらに遠のく経済の正常化

2020/08/31

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自動車生産に牽引された7月鉱工業生産の大幅増加

8月31日に経済産業省が公表した7月鉱工業生産指数(速報)は、前月比+8.0%と事前予想の平均値である+5.0%程度を大幅に上回り、2カ月連続の増加となった。前月比+8.0%は、現在の系列で遡れる1978年以来で最大の増加率だ。

7月の生産増加に最も大きく貢献したのが、自動車関連の業種である。乗用車や自動車部品などを含む自動車工業は、7月に前月比+38.5%増加した。その生産寄与率は+54.3%と7月の生産増加の半分以上に及んでいる。また、2番目はゴム製品工業を含むその他工業、3番目は鉄鋼・非鉄金属工業である。いずれも自動車生産に深く関わる業種だ。7月の生産増加は自動車の生産回復によってほぼ説明できると言えるだろう。

自動車の生産は4月と5月に大幅に落ち込んだ。コロナ問題を受けて、内外で自動車販売が大きく落ち込み、国内在庫が大幅に増加したことがその背景である。そして、その後の内外での消費活動の正常化を受けて、生産は再び持ち直しに転じている。

個人消費は7月に再び低下

しかし、鉱工業生産が2カ月連続で増加したものの、その水準は依然としてかなり低い。コロナ問題で下落基調に転じる前の1月を、7月の水準はまだ13%下回っている。また、鉱工業生産の下落基調が明らかになり始めた2019年年初の水準と比べても、16%程度低い水準にある。

さらに8月以降は、生産の回復ペースは大きく鈍化することが予想される。そのため、鉱工業生産がコロナ問題前の水準を取り戻す目途は立っていないと言えるだろう。

懸念されるのは、5月、6月と持ち直し傾向を見せていた国内個人消費が、7月には再び低下傾向を見せたことだ。感染の再拡大がその背景にあるだろう。

同じく経済産業省が8月31日に公表した7月分商業動態統計速報によると、7月の小売業の販売は季節調整値で前月比-3.3%と3カ月ぶりに下落に転じた。衣服・身の回り品や家電販売を含む機械器具小売業の販売下落が特に大きな落ち込みとなっている。自動車販売は7月も増加を続けたが、6月と比べて増加ペースは大きく低下している。

米国など海外でも、感染再拡大を受けて7月に個人消費は再び鈍化傾向を見せている。それは、この先の輸出鈍化を通じて、国内鉱工業生産の回復ペースを抑えることになろう。

7-9月期の回復ペースは緩やかで

8月製造工業生産予測指数によると、8月の生産は前月比+4.0%であったが、経済産業省による統計上のバイアスを修正する補正値によると、前月比-1.7%である。この補正値に基づくと、7月と8月の鉱工業生産の平均値は、4-6月期比で+5.0%となる。これは4-6月期の生産の前期比増加率-16.9%の3割程度に過ぎない。

7-9月実質GDPも、4-6月期に前期比年率-27.8%と落ち込んだ分の4分の1から3割程度の持ち直しにとどまるのではないか。7-9月期には前期に落ち込んだ分の半分程度を取り戻すというのが現在の平均的な見通し(コンセンサス)だが、それは楽観的過ぎる。

実質GDPも鉱工業生産も、コロナショック前のピークの水準を取り戻るまでに、なお相当の時間が掛かるだろう。実質GDPについては5年程度かかることが見込まれる。

ちなみに、鉱工業生産については、2008年のリーマンショック前のピークを、その後10年以上経過しても未だ取り戻していないのである。大きな経済ショックの後遺症は、当初の想定を上回って大きくかつ長くなりやすい点に留意したい。

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