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自民党総裁選に向けた菅氏の6つの政策綱領を検証

2020/09/07

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安倍政権の政策を継承して「政治の空白」を作らない

9月14日に実施される自民党総裁選で、既に多数の党派閥からの支持を固め、選出される可能性が高い菅官房長官が、政策綱領を公表した。そこでは、安倍政権の政策を継承して、「政治の空白」を作らないことを最優先する考えが強調されている。

政策の柱は以下の6つからなる。①国難の新型コロナ危機を克服、②縦割り打破なくして日本再生なし、③雇用を確保し暮らしを守る、④活力ある地方を創る、⑤少子化に対処し安心の社会保障制度を、⑥国益を守る外交・危機管理。

この政策綱領から読み取れる菅政権の政策方針の特徴は、同じく以下の6点にあると現時点では考えられる。

政治主導で役所の縦割り打破

第1に、政策の優先順位を考えれば当然ではあるが、菅氏が政策綱領の冒頭に掲げたのがコロナ対策だ。菅政権が成立した場合に、それが長期政権とならないのであれば、コロナ対策への対応に追われ、独自色のある政策を強く打ち出すまでに至らない可能性もあるだろう。

第2に、菅氏が独自の考えとして強調しているのが、政策綱領の2番目に掲げた「役所の縦割り」の打破である。これは、政治主導の方針のもとで、安倍政権が進めてきた政策だ。

そこでは一定の成果が見られた面がある一方、内閣が官僚の人事を強く握った結果、「忖度」等の言葉で表現されたような、様々な弊害も生んだと指摘されてきた。菅氏はそうした弊害への対応をする考えがないことが、この政策綱領には表れているのではないか。「反官僚・政治主導」は、菅政権の下では一貫したテーマとなりそうだ。

他方、「役所の縦割り」の打破の一環として、骨太の方針でも示された「行政のデジタル化」を進める考えを菅氏は示しており、その点は評価できる。それを省庁の地方移転の推進につなげ、東京一極集中是正の一助として欲しいところだ。

経済政策は左派色を強め財政健全化は後退か

第3に、菅政権が成立した場合、経済政策では、安倍政権と比べてやや左派色が強まる可能性が感じられる。政策綱領の3番目には雇用確保、5番目には安心の社会制度を掲げている。また菅氏は、待機児童問題を終わらせる考えを強く示している。こうした政策は、さらなる財政支出の増加につながる可能性を秘めているだろう。

菅氏は「『自助・共助・公助』で信頼される国づくり」を掲げている。ここに「自助」という言葉も入ってはいるが、実際には財政支出を通じて「公助」を進める考えの方が強いのではないか。

第4は、これと関連するが、財政健全化という方針が、政策綱領に含まれていない点は見逃せない。安倍政権は少なくとも形式的には掲げてきたこの方針が外れたことは、名実ともに財政健全化が後退することを意味するのではないか。それは、経済や金融市場の安定の観点からは、大きな懸念材料だ。

最低賃金引き上げは地方を活性化するか

第5は、地方重視の姿勢である。菅氏は「活力ある地方を創る」ことを、政策綱領の4番目に掲げている。ここは、菅氏が独自色を出そうとしている分野である。菅氏は自らの生い立ちが、そうした考えの原点であることを強調している。実際には、それに加えて総務大臣時代の経験にも、大きな影響を受けているのではないか。

例えば、菅氏が独自の考えとして示した「携帯通話料金のさらなる引き下げ」や「地域金融機関の再編」なども、総務省の所管分野と関わっている。

ただし、最低賃金の引き上げを地方活性化策と位置付けている点には問題を感じる。急速な賃金の引き上げは中小・零細企業の収益環境を圧迫し、雇用抑制や雇用調整の傾向を生み出している面があるだろう。特にコロナ問題下で雇用情勢が不安定な現状で、従来通りに最低賃金の引き上げを進めていく考えなのであれば、それは問題ではないか。

外交、安全保障の重要性は明確に低下

第6は、外交、安全保障の重要性が明確に低下していることだ。菅氏が政策綱領の最後に示したのが、国益を守る外交・危機管理である。外交、安全保障の分野では、菅氏の独自色はほぼ感じられない。また外交分野では、菅氏の手腕は未知数、との指摘も多く聞かれるところだ。

その結果、外交、安全保障面では、安倍政権の保守的な色彩がかなり弱まる可能性があるのではないか。この点は、経済政策とも合わせて、左派的な傾向が強い連立与党・公明党との親和性が高まり、それが政治の安定につながる可能性も考えられるところだ。

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