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遅れる米コロナ追加対策と浮上するFRBへの期待

2020/09/16

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追加経済対策の合意が遅れ「財政の崖」のリスクが高まる

米国では、追加の経済対策を巡る民主党と共和党の議論がほぼ決裂した状態が、長く続いている。5,000億ドル規模の共和党の経済対策案は、民主党の反対で10日に上院において事実上否決された。2兆ドル規模の対策を求める民主党に対して共和党は、従来提案していた1兆ドル規模をむしろ減額した提案を今回示した。両党が合意できる部分だけで合意しよう、との考え方であったが、民主党の主張する規模からより減額された提案を、民主党が受け入れる可能性はもともとほとんどなかった。

追加経済対策の合意が大きく遅れる中、従来の対策が失効していくことで景気に悪影響が生じる「財政の崖」のリスクが、着実に高まってきている。7月末には、失業給付に週600ドルを連邦政府が上乗せする特例措置が失効した。トランプ大統領は、週400ドルを積み増す大統領令を出したが、10月には資金は枯渇する見込みだ。中小企業に対して事実上補助金を与える給与保護プログラム(PPP)は、8月上旬に申込期限が切れ、年末には支給期限も失効する。また、9月末には航空会社向けの約250億ドルの雇用維持策も失効する。

次回FOMCで政策金利のフォワードガイダンスへの期待

このように、与野党の政治的対立によって財政政策が機能不全に陥り、財政の崖への警戒感が強まる中、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に期待する機運が、政府、議会、金融市場、エコノミストの間で高まってきた。

FRBは8月末に、2%の物価目標を中長期の平均値で達成を目指す、新たな中長期の政策方針を打ち出した。この方針と結びつける形で、15、16日(米国時間)の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、現在の実質ゼロ金利を相当長期間維持する方針を示す、政策金利のフォワードガイダンス(政策方針、見通し)を示すべき、との意見が浮上している。この政策金利のフォワードガイダンスは、追加緩和策と見なされるものだ。

エコノミストの間では、新たな中長期の政策方針を打ち出した後、直ぐにFRBは政策金利のフォワードガイダンスを示さないと、政策への信認が低下するとの意見も出ているが、それは考えにくいところだ。

実際には、15、16日(米国時間)のFOMCでは、議論はされようが、新たな政策金利のフォワードガイダンスの発表は見送られ、政策が現状維持となる可能性が高い(コラム「日米の中央銀行は政策の現状維持へ」、2020年9月15日)。

政策金利と経済の見通しに注目

ただし、今回のFOMCでは、政策金利と経済の見通しが3か月振りに改定され、さらにその予測期間が2023年まで1年延びることになる。前回6月時点では、政策金利は少なくとも2022年末まで現在の年0~0.25%に維持される、との見通しが示されていた。今回は、2023年末まで政策金利は現在の年0~0.25%に維持される、との見通しが示されるだろう。これはフォワードガイダンスに近い意味合いのものとなるだろう。

ところが、金融市場では2024年末まで政策金利は現在の年0~0.25%に維持される、との見通しが既に織り込まれている。そのため、新たな見通しが示されても、市場が大きく動くことはないだろう。

「困った時のFRB頼み」で過大な期待は禁物

さらに、長らく政策金利を現状水準に維持するというフォワードガイダンスが仮に示されたところで、事態は変わらないのではないか。もちろん、2025年あるいは2024年以降も政策金利を現在の年0~0.25%に維持することを示唆するフォワードガイダンスが示されれば、イールドカーブはフラット化し、その分、金融緩和効果が生じるだろうが、それはかなり小さな規模だろう。仮にかなり遠い将来までの政策をコミット(約束)しても、それは不確実性が高くなるため、信頼性が低く、政策効果は生じにくくなるのではないか。

このように、政府、議会、市場が期待しているようなフォワードガイダンスがいずれFOMCで決定されても、その政策効果はかなり小さいだろう。FRBは既に相当の金融緩和策を出してしまった、いわば弾切れ状態なのである。そうしたFRBに対して、いつもの「困った時のFRB頼み」で、過大な期待はすべきではない。

(参考資料)
"Federal Reserve urged to convert dovish words into action", Financial Times, September 15, 2020
「米、遠のく追加経済対策、上院、共和の5000億ドル案否決、与野党対立解消見えず、『財政の崖』景気に重荷」、日本経済新聞、2020年9月12日

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