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海外株式市場の調整と重なる円高要因

2020/09/23

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日本の連休中に海外市場は大荒れ

日本が連休の間に、海外金融市場は大荒れの状況となった。21日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価が一時940ドルを超える大幅安となった。欧州での新型コロナの感染再拡大リスクが高まる、米国では大統領選挙前の追加経済対策の合意が難しいとの観測が広がる、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、複数の大手金融機関が巨額のマネーロンダリングに利用されていた疑いを明らかにしたこと、などの悪材料が重なったことが背景にある。

また、米国では大統領選挙後に選挙結果が直ぐに確定せずに大きな政治混乱が生じるリスクがあることが、選挙が近づく中で、VIX先物市場などだけでなく株式の現物市場の価格にも影響を与え始めたことも、理由の一つに考えられるのではないか。連休明けの23日の日本の市場でも、株価の調整は避けがたいだろう。

「リスクオフの円高」が戻ってきたか

他方、足もとでは対ドルでの円高が進行している。グローバルに金融市場が不安定になり、リスクオフ(リスク回避)傾向が強まると、円が買われやすいという、定石通りの動きである。新型コロナウイルス問題でグローバル市場が大きく混乱した後は、必ずしも円高一方の動きとはならなかったが、それは一時的に世界でドル需要が急速に高まったためである。しかし、そうしたドル需要が一巡してきたことで、従来通りの「リスクオフの円高」が戻ってきた感もある。

欧米の「日本化」は日本の相対的な評価を高め円高要因に

さらに、新型コロナウイルス問題をきっかけに、円高圧力がより高まるという構造変化が生じた可能性がある。それは欧米での「日本化(Japanification)」である。潜在成長率が低下するなかでインフレ率の基調も低下し、低金利が長期化する。そのもとで金融緩和効果が低下する。さらに政府債務が急増する、といった現象である。

欧米経済に「日本化」の兆候がより強く見られ始めたことで、ある意味、今までの日本の悪さが目立たなくなったという側面もある。日本は「日本化」を心配する必要もないのである。それは、日本の相対的な評価を高めることを通じて、為替市場で円高圧力を生むだろう。

「1ドル100円をめどにマイナス金利の深堀り」は封印か

さらに、これとも関連するが、欧米と比べて日本では追加の緩和の余地が限られる。また、日本銀行も追加緩和により慎重である。このことが、日米の金利差縮小観測から円高圧力を生じやすくしているのではないか。

新型コロナウイルス問題が生じる前には、日本銀行は1ドル100円をめどに、円高が進行した場合には、マイナス金利の深掘り(政策金利の一段の引き下げ)の実施を覚悟していたと考えられる。

しかし、新型コロナウイルス問題後は、円高進行時でもマイナス金利の深掘りという選択肢を封じたように見える。それは、新型コロナウイルス問題でより脆弱性が浮き彫りになった金融機関の収益環境、そして金融システムの安定性への配慮を強めたからである。

また、新型コロナウイルス問題で既に国内経済は大幅に悪化していることから、円高進行が国内経済に追加的な悪影響を及ぼすとして、日本銀行に円高対応を求める世論も高まりにくい、と言う面もあるだろう。

欧米の中央銀行の方がより追加緩和実施の可能性がある

1ドル90円台が定着し、さらに80円台をも伺うような状況に至れば、日本銀行も追加緩和を検討するだろうが、そこまでにはまだ距離がある。少なくとも1ドル100円を超える円高となることをきっかけに、直ぐに追加措置を実施することはないだろう。

さらに円高対策ではなく、経済対策として追加緩和措置を日本銀行が実施する可能性は低い。他方で、欧米の中央銀行は景気情勢が悪化すれば、より迅速に追加緩和措置を実施するだろう。また、欧州中央銀行(ECB)は、対ドルでユーロ高が進めば、それが日本型デフレのリスクを高めることを警戒し、追加緩和を決める可能性がある。

日本銀行が欧米と比較して追加緩和の余地がないだけでなく、その実施に慎重であることが、潜在的に円高圧力となっていよう。

円高で増幅されやすい日本の株価調整

足もとでの欧米株式市場の動揺は、冒頭で述べたような悪材料が重なったことで引き起こされたが、底流には、新型コロナウイルス問題で経済情勢が悪化、また先行きの不確実性が高い中で、株式市場が堅調な回復ぶりを見せてきたという、市場の過度の楽観論が見直され始めた、と言う側面もあるだろう。その場合には、株式市場の調整局面は長引きやすいのではないか。

さらに上記のような円高要因が重なる日本では、海外での株価の調整の影響に円高が重なれば、国内の株価の調整がより増幅されることになりやすい。円高が伴うことで、海外市場以上に株式の調整幅が大きくなりやすい、という日本の市場の従来の特徴も、再び戻ってくる可能性があるのではないか。

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