フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 欧州でロックダウン再びか:規制措置の有効性の検証が重要に

欧州でロックダウン再びか:規制措置の有効性の検証が重要に

2020/09/29

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

部分的なロックダウン(都市封鎖)の再開

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、欧州の一部の国では再び規制を強化する動きが広がってきた。各国は夏のバカンスの時期に旅行関連業への打撃を小さくすることを狙って、人の移動などの規制を緩和してきたが、9月に入ってそのつけが回ってきた形だ。

感染再拡大から規制強化に動いているのは、スペイン、フランス、英国などである。感染拡大第3波の兆しが見え始める中、GOTOトラベルへの東京除外措置の解除を決めた日本にとっても、これは参考になる動きだろう。

スペインのマドリッド州は、9月21日から一部地区への人の出入りを制限し、また集会の人数も制限した。違反者には罰金が科せられる。部分的なロックダウン(都市封鎖)の再開である。

南仏のマルセイユでは、26日から飲食店が閉鎖された。パリや南仏トゥールーズ、中部リヨンなどでも集会が制限され、またバーの営業が午後10時までとされた。スポーツジムも閉鎖されている。

英国では、イングランドのパブやレストランの営業時間が、24日から午後10時までに制限され、また小売店の従業員にもマスク着用が義務付けられた。さらに違反者への罰金が2倍に引き上げられている。スコットランドとウェールズの自治政府も、飲食店の営業時間短縮などを決めた。

検査体制に関する国民の不満は強い

これらの国では、感染の再拡大を防げなかったことで、政府は失策との批判を浴びている。ただし、感染の再拡大は、政府の規制緩和の影響によるものか、あるいは個人の感染抑制行動の緩みによるものかは判然としていない中ため、一方的に政府の失策を批判する声が高まっている訳ではない。逆に、規制強化に反発するデモが、ロンドンでは起こっている。

そうしたなか、各国に共通している国民の不満は、感染の検査体制に関するものだ。フランスのマクロン大統領は7月に、症状がなくてもすべての人が検査を受けられるようにすると宣言したが、今でも、パリなどでは検査を受けるまでに2~3週間もかかるという。また、検査結果が出るのにも1週間以上かかる、と報じられている。英国でも検査を受けられない市民が多い。野党・労働党は、検査能力の拡充に十分に取り組まなかった政府を強く批判している。

日本でも、無料の公的検査を受けることのハードルがかなり高いことへの国民の不満が強く、状況は似通っている。

イタリアが感染再拡大抑制に成功している理由

他方、春には欧州の中で感染拡大が最も顕著であったイタリアで、現在は感染拡大が抑制されていることが注目されている。その背景として、3点指摘されている。第1は、欧州の他国が夏を前に規制解除を一気に進める中、イタリアは解除に慎重な姿勢を維持し、また、解除の実施も他国より漸進的であったことだ。さらに、イタリア政府は、必要に応じて素早く再規制を実施できたのである。それを可能にしたのは、他国とは異なる法的枠組みである。

新型コロナウイルス対策で発令された非常事態宣言は、イタリアでは首相に政令による統治の権限を付与しており、夏の間に新規感染者が盛り返しても中央政府は迅速な対応が可能だった。他方、スペインでは、中央政府が地方に特別な権限を行使できる非常事態宣言は、6月に終了していたため、中央政府の対応が遅れた面があったと見られる。

第2は、やや信じられない面もあるが、政府の規制に素直に従う国民の姿勢である。イタリアでは、他国よりも国民がソーシャルディスタンスなどの政府の感染防止策を尊重しているとの指摘がある。英インペリアル・カレッジ・ロンドンの調査によると、イタリア人の84%が政府のマスク着用要請に「非常に積極的に、あるいはある程度積極的に従う」と回答した。英国ではその比率は76%だったという。

第3は、当局が、感染者と接触した人を追跡し効果的に監視することを重視したことである。

規制措置の実効性検証が重要

欧州3か国を中心に、政府は再びロックダウン(都市封鎖)の地域限定版、あるいは縮小版を導入し始めている。しかしその施策には、春にとられたロックダウンの経験が十分に活かされているようには見えない。同じ措置を繰り返そうとしているように見受けられる。

どのような規制策が感染リスク抑制に有効であるかが十分に明らかになっていれば、経済活動への打撃を最小限に抑えつつ、感染リスクを抑制することが可能となるはずだ。

今春に各国でとられたロックダウンは、100年前のスペイン風邪の時の対策と、基本的には変わらない。感染対策で当時と現代との違いは、有効な治療薬、ワクチンを作り出す科学力があるということだ。しかし、その開発には相応の時間がかかることを考えれば、それを待つだけでは、感染収束に要する時間は、スペイン風邪の時と大きく変わらなくなる可能性があるのではないか。スペイン風邪では、集団免疫が得られたことで、2年程度で感染拡大は収束していった。

現代の科学の力を生かして、早期の感染収束を図るのであれば、治療薬、ワクチンに加えて、各種規制措置の有効性に関するデータを蓄積し、分析していくことが重要だろう。それが、感染抑制と経済活動再開の両立を図る際には、賢いやり方なのではないか。

こうした点に基づくと、日本のGOTOトラベル事業も、経済活動再開という目的に傾斜した施策であり、感染拡大を促してしまうリスクを含みながらも、その子細な分析に基づいた対策を含んでいない、必ずしも賢くない施策と言えるのではないか。

他方で、個人の経済活動と感染リスクとの関係性をより科学的に実証した上で、その結果も踏まえた新たな規制措置を政府が導入するのであれば、それは国民により受け入れられやすくなるのではないか。それは措置の実効性を高めることにもつながるだろう。

新型コロナとの戦いが長期戦になる可能性が高いことを踏まえると、欧州各国、そして日本でも、規制措置の実効性の検証にもっと注力し、賢い規制措置を追求してもよいのではないかと思われる。

(参考資料)
“New Thinking on Covid Lockdowns: They’re Overly Blunt and Costly”, Wall Street Journal, August 27, 2020
「第1波で地獄を見たイタリア、コロナ対策先進国に」、フィナンシャル・タイムズ、2020年9月24日

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn