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G7がデジタル人民元を強く牽制

2020/10/14

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「リブラ」へのG7の警戒感はやや緩んだ

10月13日にG7(主要7か国)財務大臣・中央銀行総裁会議がオンライン形式で開かれた。デジタル通貨、デジタル決済が今回の主な議題であり、会議開催後には、デジタル・ペイメントに関する共同声明が出された。

そこでは、フェイスブックが主導するデジタル通貨「リブラ」の発行計画を念頭に、各国に跨って利用される「グローバル・ステーブルコイン」等を、「法律・規制・監督上の要件に十分対応するまではサービスを開始すべきではない」と強く牽制した。ただし、これは従来のG7、G20(主要20か国・地域)財務大臣・中央銀行総裁会議の主張を再確認したものに過ぎない。

今回注目されたのは、中国の中銀デジタル通貨(CBDC)である「デジタル人民元」を、名指しは避けながらも強く牽制したことだ。「リブラ」計画は、主要複数通貨にその価値を連動させ、世界で広く利用できるように設計される「グローバル・ステーブルコイン」として発行する当初計画を修正し、当面は単一通貨に紐づけられたデジタル通貨の発行へと軌道修正する方針を、フェイスブックは既に明らかにしている。

そのため「リブラ」が、マネーロンダリング(資金洗浄)に利用され、また各国の金融政策、金融システムに深刻な悪影響を与えるリスクは小さくなったとして、G7は警戒心をやや緩めたのだろう。

牽制対象は「リブラ」から「デジタル人民元」へ

G7は牽制対象の中心を、「リブラ」から「デジタル人民元」へと移したと見られる。声明文では「透明性、法の支配、健全な経済ガバナンス」の3つを、事実上、中銀デジタル通貨が満たすべき3原則として示している。透明性、法の支配などは、中国の安全保障上の行動、一帯一路構想でのインフラ投資、途上国債務問題など多くの分野で、米国を中心に先進国が中国の行動を批判、牽制する際のいわば常とう句である。それを、中銀デジタル通貨の分野にも広げてきたのである。

会議後の記者会見で麻生太郎財務相は、「透明性や法の支配、健全な経済ガバナンスへのコミットメントが重要という認識を示した。これは中国も含めた(中銀デジタル通貨)導入の動きを念頭に置いたものだ」、「『中国さん、あんた透明性は大丈夫?』という話だ」と、G7の議論と声明文が、中国を意識したものであることを隠さなかった。

G7はデジタル人民元の海外での利用を想定

ただし、中銀デジタル通貨を含め、各国でどのような通貨、どのような決済システムを導入するかは、まさに国家主権に関わる問題であり、各国が決めるべきことだ。それを承知の上で、G7が中国のデジタル人民元構想を牽制するのは、その利用が中国一国にとどまらず、海外で流通することを想定しているからに他ならないのである。その場合には、他国の金融システムや金融政策にも悪影響が及ぶ可能性が出てくる。

実際、中国がデジタル人民元の発行で目指すのは、海外での利用を拡大させることで人民元の国際化の起爆剤とし、国際的な資金決済を支配する米国の通貨・金融覇権に挑戦することにある、と考えられる。しかし、そうした重要な国家戦略を、中国が安易に対外的に明らかにすることはない。今後も、主に国内で利用されるデジタル人民元については、他国からの干渉は受けない、と中国は主張して、G7の牽制をかわし続けることになるのではないか。

G7はデジタル人民元を攻めあぐむ

一方G7側が、デジタル人民元を強く警戒し、牽制するのは、表面的な説明以上に、中国が中銀デジタル通貨で最先端の技術を開発し、世界標準を作り上げてしまうことや、デジタル人民元が人民元の国際化を推進することで、ドルの通貨覇権が揺らぎ、ドル暴落などの事態を招くことを怖れているためでもある。そうした本音を隠しつつデジタル人民元を牽制しても、それは中国に見透かされるため、デジタル人民元構想に歯止めをかけることは難しいだろう。

リブラ計画は、先進国が強く牽制することで軌道修正に追い込むことができた。しかし同じ手は、デジタル人民元には有効でないだろう。デジタル人民元に対抗するためには、結局は、先進国も自ら中銀デジタル通貨の発行を急ぐしかない。

現状では中銀デジタル通貨の発行については、比較的前向きな欧州、慎重な日本、それ以上に慎重な米国と、G7各国の中でも温度差は大きい。しかし、2022年までの発行を目指しているとされるデジタル人民元計画は、中銀デジタル通貨の発行に慎重な国にも、その検討を強く促す原動力の一つであり続けるだろう。

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