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確定が遅れる米大統領選挙結果と金融市場の反応

2020/11/04

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バイデン候補の早期勝利確定は遠のく

11月3日に実施された米国大統領・議会選挙の開票作業が、日本時間4日午前9時から東部州から随時行われている。民主党が下院で多数派を維持する見通しは、多くの報道機関によって比較的早期に示された。

大統領選挙については、多くの州で報道機関による当選確実の判断が示され、共和党・トランプ大統領、民主党バイデン候補の勝敗がそれぞれ決まっている。しかしそれらは、事前予想通りのものが多い。

他方で、事前に勝敗の予想が難しかった「激戦州(スイング・ステート)」の結果の多くが、現時点(日本時間4日午後2時)では確定していないことから、バイデン候補優位の情勢ながらも、大統領選挙の結果について未だ確定的な方向は見えていない。激戦州の一つであり、注目度が極めて高いフロリダ州では、選挙結果の判断がすぐには行われない見通しと、米メディアは報じている。

また、トランプ大統領が、伝統的に共和党が強い南部のサンベルト地帯で予想外の強さを見せていることなどから、少なくとも開票序盤の早期の段階で、バイデン候補が勝利を決める可能性は遠のいてしまった。

金融市場はバイデン候補の勝利をプラスに評価

金融市場では、大統領選挙結果の評価について、明確なコンセンサスが成立している訳ではないが、選挙選終盤にかけて、バイデン候補の勝利は株式市場にプラス、との見方が次第に強まっていったように思われる。歴史的には、反企業的な側面を持つ民主党政権の樹立を、米国株式市場は嫌う傾向がある。しかし、今回については、バイデン民主党政権の方が、トランプ政権よりも企業活動や経済に総じてプラスになる、との判断が背景にあるのではないか。

バイデン政権下での経済政策について、市場の楽観論を支えているのは、第1に、バイデン氏は民主党の中では穏健派であること、第2に、トランプ政権が推し進めた対中貿易戦争などの自国第一主義的な政策が、米国経済にはマイナスとなったこと、第3に、バイデン候補が掲げるインフラ投資などの歳出拡大の景気刺激効果が、同じくバイデン候補が掲げる法人税率引き上げ、富裕者増税の景気抑制効果を上回り、全体としてはトランプ政権よりも景気が刺激される、との見方がある。

バイデン候補は、地球温暖化対策関連を中心に、インフラ投資の拡大を選挙公約に掲げている。「責任ある連邦予算委員会」の試算によると、2021年から2030年の10年間の効果で、公約通りであればバイデン政権の下でインフラ投資は4.5兆ドル増加する。これは、トランプ政権の下での2.7兆ドルを上回る。

さらに、財政収支全体への影響についての試算では、バイデン政権下では財政収支は10年間で5.6兆ドル悪化する見通しであり、トランプ政権下での5.0兆ドルを上回る悪化幅となる。つまり、より財政拡張的な政策がとられることになるのである。

政権交代は日本経済にもプラスか

バイデン候補は、トランプ政権が導入した追加関税を撤回する考えを示している。バイデン政権の下で仮に米中貿易摩擦が沈静化すれば、それは日本経済にとってもプラスである。米中は日本にとって最大の輸出先であることから、両国が追加関税の応酬を通じて経済を悪化させる、いわゆる消耗戦を繰り広げるのは、日本の輸出環境を悪化させるためだ。

また、トランプ政権下で行われた日米貿易協議も、バイデン政権下では立ち消えとなり、日本は追加で対米自動車輸出削減を求められることもなくなるのではないか。

さらに、バイデン政権下で米国が自国第一主義から国際協調路線に戻るのであれば、国際協調を国是とする日本にとっては、貿易政策、環境政策など幅広い分野で、米国と足並みを揃えた対外政策が実施しやすくなるだろう。

バイデン候補の勝利を織り込んで円安、日本株高

米国大統領選挙に関係した日本の金融市場の動きは、米国市場に連動しやすい。バイデン候補の勝利とその後の政策を織り込んで、米国市場でドル高、株高が続けば、日本市場では円安、株高が進みやすい。さらに上記の日本の事情を踏まえれば、その動きはより増幅される可能性があるだろう。

ただし、この先、トランプ大統領が勝利するとの見方が優勢となれば、米国市場ではドル安、株安に振れやすくなる。それ以上に大きな懸念は、選挙結果が法廷闘争に持ち込まれ、確定までに相当の時間を要する事態となることや、そうした政治空白に乗じて米国内で暴動が生じ、また海外の反米国で軍事活動が活発化する場合には、一気に大幅ドル安、株安となるリスクが残されていることだ。

さらにもう1点注意したいのは、足もとで国債市場が調整色を見せている(長期金利が上昇している)ことだ。これは、どちらの候補が勝利しても、景気刺激的な政策がとられるとの見方を反映した、いわば「良い金利上昇」の側面があるだろう。他方で、そうした政策のもとで国債の需給が一段と悪化するとの見方を反映した、いわば「悪い金利上昇」の側面も併せ持つのである。

財政悪化への対応で歴史は繰り返されるか

仮にバイデン候補の勝利を受けて、米国市場でドル高、株高の基調が当面は続くとしても、財政悪化の下での国債の信認低下がドルの信認低下につながれば、「悪い金利上昇」がドル安、株安、債券安のトリプル安へと発展していく可能性がある。そうした事態となれば、日本の金融市場の混乱を通じて、日本経済にも悪影響が及ぶだろう。

大統領選挙では、財政健全化が全く争点とはなっていないが、このような事態が生じる前に、共和・民主どちらの政権であるとしても、新政権が財政の健全化に着手するかどうかは、大きな注目点である。しかし、過去の例では、双子の赤字を拡大させた第1期のレーガン政権が、第2期に財政健全化へと舵を切るきっかけとなったのは、金利上昇やブラックマンデーのような株価下落、そしてドル暴落への警戒が高まった後であった。市場の強い警鐘がないと、財政政策は大きく転換されにくかった。

仮に歴史が繰り返されるのであれば、市場が明確に警鐘を鳴らすまでは、新政権は財政健全化に着手しない可能性が相応にある。そこに米国、日本、そして世界の金融市場を動揺させかねない大きなリスクが残ることになるだろう。

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