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7-9月期GDP統計と3次補正予算

2020/11/12

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7-9月期GDP成長率は高水準も海外に見劣り

内閣府は11月16日に、7-9月期GDP統計・一次速報を発表する。前期比年率-28.1%と戦後最大の下落幅を記録した4-6月期の実質GDPから、一転して高成長となる可能性が高い。10月末時点での日本経済新聞社の集計によると、予測機関の平均値は同+18.3%である。4-6月期実質GDPが公表された時点で筆者は、7-9月期は年率1ケタ台のプラス成長にとどまる可能性もあると考えていたが、実際にはそれを大きく上回りそうな情勢となっている。

しかし、仮に7-9月期GDPが予想通りの成長率になるとしても、それで先行きの日本経済に対する楽観論が大きく高まることはないだろう。その理由は、第1に、海外の成長率と比べて見劣りすることだ。米国では、4-6月期の実質GDPが年率-31.4%となった後、7-9月期は同+33.1%であった。また、ユーロ圏では、それぞれ-39.5%、+66.1%である。両国・地域共に、4-6月期の下落率を上回るプラスの成長率が7-9月期に実現された。他方で日本については、下落率を上回るプラスの成長率は達成されがたい。

海外と日本との成長率の違いは、主に個人消費の回復力にありそうだ。日本で、4-6月期の実質個人消費は前期比-7.9%であったが、7-9月期は同+4%台にとどまるというのが、現時点でのコンセンサスである。

この間の、欧米での成長率の大幅な上下の振れは、感染拡大防止のためのロックダウン(都市封鎖)と呼ばれる強力な規制の導入とその撤廃によって形作られた側面が強い。日本では、欧米ほどには厳しい規制が導入されなかったことが、4-6月期のGDPの落ち込みが相対的には小さかった大きな要因である。他方で日本では、政府による規制とは別に、感染リスクに警戒した慎重な個人の行動が7-9月期も続いたことが、同期の相対的な成長率の低さにつながっている面があるだろう。

日本経済に残る「二番底」のリスクも

第2の理由は、回復ペースの遅さである。仮に7-9月期の成長率がコンセンサス通りになるとしても、マイナス成長に陥る前の昨年7-9月期の水準と比べて、つまり前年同期比で実質GDPは依然として-6%程度と大幅マイナスの状態であることは変わらない。

この結果、実質GDPがコロナショック前のピークの水準まで戻る時期は、依然として見通せない。中国では実質GDPは既にコロナショック前の水準を回復し、米国はその時期は2021年、欧州は概ね2022年から2023年頃と見込まれるが、日本では2024年までずれ込むのではないか。

こうした日本の回復力の弱さは、既に見た、消費者の感染リスクへの警戒姿勢に加えて、潜在成長率など経済の潜在力の弱さ、企業の業態転換や労働者の転職などといった企業・雇用の流動性の低さ、などが背景にあるのではないか。

第3は、感染再拡大の影響である。既に見た日本経済新聞社の集計によると、7-9月期の高成長の後、10-12月期そして来年1-3月期の実質GDP成長率の平均予測値は、それぞれ年率+4%程度、同+3%程度である。7-9月期の高成長は4-6月期の反動であり、その後は緩やかなペースでしか経済は回復しない、との見通しとなっている。

足もとでは北半球の気候条件の変化も影響して、欧米そして日本では、コロナの感染者数が再び拡大傾向を見せている。それは、先行きの成長率の見通しを一段と悪化させることになる。既に欧州では、ロックダウンに近い措置が講じられており、その結果、英国、ユーロ圏の成長率は、10-12月期に再びマイナス成長に陥る、いわゆる「二番底」の可能性が高まっている。

内外で感染がさらに拡大していった場合には、日本でも来年1-3月期の成長率がマイナスとなり、「二番底」に陥る可能性が出てくるだろう。

7-9月期GDP統計で3次補正予算の議論は本格化か

菅義偉首相は10日の閣議で、追加経済対策を実施するための第3次補正予算の編成を閣僚に指示した。12月上旬に閣議決定し、来年1月の通常国会で成立させる見通しだ。3次補正は、来年度本予算案と一体的に使う「15カ月予算」とすることが予定されている。

具体策はまだ固まっていないが、16日に発表される7-9月期GDP統計が、その議論の起点となるのではないか。既に述べたように、表面的な成長率は高めとなるが、それによって先行きの日本経済に対する楽観論が高まる可能性は低く、むしろ、より景気刺激効果のある経済対策を求める声が、与党内では高まるきっかけとなるのではないか。

3次補正予算には、コロナ関連での経済対策の3本柱である持続化給付金、家賃支援給付金、雇用調整助成金、の支給期間の延長、増額が含まれるだろう。雇用調整助成金については、従業員の出向に関わる助成金の増額も検討されている。これらの延長、増額の措置は概ね妥当であろう。

ちなみに、GOTOトラベルの延長も含まれるだろうが、これについては感染リスクを高めるなどの問題点があるため、筆者は賛成できない。

「規模先にありき」の議論に

しかし、これらの施策だけであれば、依然として7兆円規模で残っている2020年度の予備費で十分に賄われる範囲であり、補正予算を編成する必要はない。今さらであるが、2次補正で予備費を10兆円積み増したことは過大であった。

補正予算の規模としては、10兆円~30兆円との議論がある。与党内では、いわゆる商工族議員を中心に、大規模の補正予算を求める声が日々強まっている感がある。再び「規模先ありき」の議論になってきているのである。

予備費を上回る部分については、国土強靭化計画に基づく公共投資の拡大が有力な候補となるようだ。しかし、それは3次補正で予算化する必要が本当にあるのか。また、デジタル化など菅政権の目玉政策に関わる予算も含まれる可能性がある。それについては経済の効率化に資することから必要ではあるとは思うが、来年度本予算での計上で良いのではないか。

コロナ対策が引き続き最優先

新型コロナの感染が広がる中、優先されるべきは、治療薬、ワクチンの研究支援、生産、購入、あるいは医療・検査体制の一段の強化といったコロナ対策ではないか。感染リスクが比較的高い中では、経済活動の本格的な回復は見込めない。その中で、無理に経済活動の再開を促す政策を講じれば、感染リスクを高めることになり、経済の本格的な回復時期をさらに遅らせることになるだろう。GOTOトラベルにも、そのようなリスクがある。

こうしたコロナ対策であれば、予備費の範囲で十分に賄われるだろう。少なくとも、10兆円を超える規模の補正予算編成は必要でないはずだ。ところが、内閣が交代したことで、新たな政策をアピールするために補正予算を編成する、との機運は、菅政権発足時から既に浮上していた。

しかしながら、コロナショック以降の政策の影響で、既に財政環境は大幅に悪化している。「規模先にありき」の議論ではなく、貴重な財政資金をしっかりと優先順位を付けて効率的に使っていくことが重要だ。

そして、財源を安易に国債発行で賄うことも大いに問題だ。今年度の新規国債発行額は既に90兆円超と空前の規模に膨れ上がっている。国債発行で将来世代への負担の転嫁を繰り返すのではなく、必要な対策を講じる際には、それと並行して財源確保についてもしっかりと議論することが必要だ。

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