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感染再拡大で日本経済に『二番底』のリスク

2020/11/16

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7-9月期は52年振りの高成長も前期の反動

11月16日に内閣府が発表した7-9月期GDP統計・一次速報で、実質GDPは前期比年率+21.4%と、52年振りの高い成長率となった。また、事前予想の平均値同+18%程度を幾分上回った。想定以上の純輸出の増加(輸出増加と輸入減少)や、政府のコロナ対策を映した政府最終消費の増加などが、事前予想を上回る成長の牽引役となった。

しかしながら、この高い成長率は、戦後最大の下落率となった4-6月期の実質GDPの前期比年率-28.8%の反動増に過ぎない。また、実質GDPの前年同期比に注目すると-5.8%と大幅マイナスの状態であり、水準でみれば依然としてかなり低い状態だ。

日本の実質がコロナショック前のピークの水準を取り戻すタイミング、いわば本格回復の時期は、現時点では全く見通せない。筆者は、それは2024年末までかかると現時点では見ている(コラム「7-9月期GDP統計と3次補正予算」、2020年11月12日)。

さらに、欧米と比べても、7-9月期の実質GDPの持ち直し幅は小さく、海外にも見劣りするものだ。

感染再拡大で浮上する「二番底」のリスク

海外と比較した場合に際立つのは、非耐久財を中心とする7-9月期の個人消費の回復力の弱さである。7-9月期の実質個人消費は前期比+4.7%となったが、これは4-6月期の同-8.1%の落ち込み幅の6割にも満たない。緊急事態宣言が解除された後も、感染リスクに配慮して個人が消費活動の抑制を続けていたことの表れである。

他方、足もとでは感染者数が再び顕著に増加し、「第3波」の様相を強めている。また、欧米諸国でも感染者数の増加傾向が強まっており、それを受けて、欧州諸国では規制強化策が講じられ、国によっては今春のロックダウン(都市封鎖)の再現に近い状況となっている。

このため、英国とユーロ圏では、10-12月の実質GDPが再び前期比でマイナスとなる可能性が高い。日本では、10-12月期の成長率はプラスを維持すると見られるが、年率+2~3%程度と、7-9月期と比べればかなり低水準にとどまろう。

年末から年明けにかけて感染者数の増加傾向がさらに強まる場合には、2021年1-3月期の実質GDPは前期比で再びマイナスに振れ、欧州と同様に日本経済も「二番底」に陥るだろう。

年末・年度末にかけて高まる企業の倒産、失業増加のリスク

足もとで、感染が再拡大していることは、企業や消費者の活動を一段と慎重にさせる。感染の再拡大によって早期に売り上げが戻るとの期待が遠のいた中小・零細企業の間では、年末あるいは年度末にかけて自ら廃業を決めるところが増えてくるだろう。それと共に、失業の増加ペースも高まるだろう。

この冬は、感染拡大の面でも山場となるだろうが、経済活動においても正念場となるのである。

感染対策と経済活動の再開は両立しない

以上のような点を踏まえると、52年振りの高い成長率となった7-9月期GDP統計も、企業、個人、金融市場あるいは政府にとって、日本経済の先行きに楽観的になるきっかけとはならないだろう。むしろ政府内では、現在検討している3次補正予算で、より大きな規模の経済対策を盛り込む流れをこの統計が後押しするのではないか。

しかし、感染リスクが再び意識される中では企業・消費行動はより慎重となり、政府が景気刺激を狙った対策を実施しても、その効果は限られるだろう。他方で、感染リスクの拡大を助長してしまうリスクも相応にある点には注意が必要だ。政府が補助金によって消費者に旅行を促す(背中を強く押す)GOTOトラベルなどの事業は、そうしたもののうちの一つだろう。

感染対策と経済活動の再開の両立は、可能な範囲では最大限進めるべきだが、両立できない部分も多くある。両社が相いれない場合には、政府は感染対策を優先すべきだ。それが、先行きの感染拡大への不安を緩和するのであれば、企業や消費者の行動にもプラスに働くのではないか。また、既に述べた廃業を減らす効果もあるだろう。

感染者数が再び顕著に増加するもとでは、感染リスクの拡大を高めかねない景気刺激策を拙速に打ち出すのではなく、給付金、助成金の延長、積み増しを通じて企業、雇用をしっかりと支えることが重要だろう。

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