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動き出したバイデン政権の閣僚人事構想

2020/11/18

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米国史上最も多様性に富んだ閣僚人事に

次期大統領の座を手中に収めつつあるバイデン氏は、新政権でのホワイトハウスや主要閣僚の人事の構想を現在練っている。バイデン氏は11月11日に、長年のアドバイザーであるロン・クレイン氏を、ホワイトハウスを取り仕切る首席補佐官に指名した。今のところ、これが唯一の指名である。

バイデン氏は、12月上旬までに主要閣僚リストを発表することが予想されている。ただし、国務長官、財務長官、国防長官、司法長官といった最重要閣僚の人事については、11月26日の感謝祭までに指名する可能性がありそうだ。

バイデン氏は、米国史上最も多様性に富んだ政権を発足させると公言している。これは、女性やマイノリティーの積極登用を意味しているのだろう。さらに、融和の象徴として、共和党からの登用も考えられるところだ。

選挙後に党内での軋轢が浮上

ただし、今後の人事は、共和党と民主党左派の板挟みとなって政策が停滞するという、バイデン政権の先行きの政策運営を予見させる展開となる可能性もあるのではないか。

バイデン氏の勝利が固まる中で、民主党内での左派と穏健派との間の軋轢も表面化してきている。議会選挙では、民主党は下院で議席数を大幅に減らしたが、その責任をお互いに擦り付けるような争いが既に生じている。

また、バイデン氏を勝利させるために、選挙戦では自らの主張を抑えて穏健派に最大限協力してきたとの意識が、左派、特に急進左派の間では強い。彼らは、その見返りを求め始めている。地球温暖化対策や公的医療保険制度改革などの政策で、バイデン氏が掲げた公約よりも急進的な政策を要求する声が、急進左派の中で高まっているのである。

さらに、新政権の人事では、急進左派で民主党の大統領候補者選びにも名乗りを上げたバーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン女史を主要閣僚に登用すべき、とするバイデン氏への要求も出てきている。

バイデン氏が急進左派を主要閣僚に指名する場合には、バイデン政権の政策がより反企業的、反富裕者的に振れるとの観測が浮上し、金融市場を不安定化させる可能性もあるだろう。

閣僚人事で立ち往生する可能性

他方、民主党は上院で共和党に過半数の議席を許す可能性が高まっている。現時点では非改選を含めて議席数は共和党50、民主党48であり、残る2議席は来年1月5日に行われるジョージア州の決選投票で決まる。国家安全保障担当大統領補佐官以外の主要閣僚人事はすべて上院の承認が必要であることから、バイデン氏の指名が議会で承認されず、阻まれる可能性が出てくる。特に急進左派の指名は、上院共和党の反対に遭い実現できない可能性がある。

このように、バイデン政権はその発足直後から、民主党内急進左派と共和党の板挟みにあって、閣僚人事で立ち往生する可能性がでてきている。

財務長官候補はいずれもFRB関係者

金融市場は、財政・税制政策や金融改革を担う財務長官人事に、特に大きな関心を持っているだろう。財務長官の候補で、現在最も有力視されているのが、元国際担当財務次官で、現在は米連邦準備理事会(FRB)理事のラエル・ブレイナード女史である。FRBでは、金融緩和に前向きなハト派とされる。また、金融規制にも携わり、金融機関に自己資本の上積みを課す「資本バッファー」の強化や低所得層、マイノリティーへの貸し付け拡充を唱えてきた。デジタル通貨への関心も高い。

それ以外に名前が挙がっているのも、いずれもFRB出身者だ。元財務副長官でFRB理事も務めた経験を持つサラ・ブルーム・ラスキン女史も、民主党内で推す声がある。弁護士でもあり、以前にはメリーランド州の金融監督を担当していた。さらに、アフリカ系米国人で元FRB副議長のロジャー・ファーガソン氏も候補とされる。ウォール街では、ファーガソン氏への期待が強い。

また、前FRB議長のジャネット・イエレン女史の名前も挙がっている。財政・税制政策で議会対策を積極的に担う必要から、財務長官には大物を充てる方が良い、との考えが背景にある。

以上の4候補は、女性あるいはマイノリティーであり、バイデン氏が重視する多様性を体現するものとなろう。ちなみに、可能性は低いものの、急進左派のエリザベス・ウォーレン女史も候補の一人とされている。

女性が多い国務長官・国防長官候補

外交を担う国務長官で、最も有力視されているのが、オバマ前大統領の国家安全保障担当補佐官を務めた、国際問題での経験が豊富なスーザン・ライス女史だ。リベラル派のなかでは、軍事介入に関してタカ派寄りの立場をとっている。他方で、米中で世界を仕切る「新しい大国間関係」という中国の主張に理解を示したこともある。

また、長年バイデン氏の外交顧問を務めるトニー・ブリンケン元米国務副長官、バイデン氏と同じデラウェア州出身で親密な関係にあるクリス・クーンズ上院議員、駐ロシア大使、国務副長官などの経歴を持つベテラン外交官ウィリアム・バーンズ氏の名も挙がっている。

国防長官として最有力視されている人物が、ミシェル・フローノイ女史である。クリントン政権とオバマ政権で国防総省高官を務め、今回の大統領選ではバイデン陣営の国防問題アドバイザーを務めた。就任すれば女性初の国防長官となる。

それ以外では、上院議員のタミー・ダックワース氏と、上院軍事委員会の民主党トップであるジャック・リード氏の名前が挙がっている。ダックワース氏は、元軍人で、2004年にイラクで陸軍のヘリコプターを操縦中に撃墜され、両脚を失った。仮に国防長官になれば、タイ系米国人初の閣僚となる。

女性が主要閣僚ポストを占め、海外主要国との関係修復も

以上、3つの主要閣僚候補について見てきたが、閣内での大統領権限継承順位では、第1が国務長官、第2が財務長官、第3が国防長官の順番である。注目されるのは、歴史上初めて、この3つの主要閣僚ポストを、いずれも女性が占める可能性が出てきたことである。さらに、副大統領も史上初の女性である。

バイデン政権の下、3つの主要閣僚に期待される共通の役割は、トランプ政権の「米国第一主義」によって著しく悪化した、海外主要国、特に同盟国との関係修復である。このトランプ政権が残す負の遺産への対応が、最初の大きな仕事となるだろう。

そして、女性閣僚が、米国の顔としてこうした役割を果たしていく可能性も出てきた。そうなれば、海外の目には新鮮であり、米国の政権交代を強く印象付けることになるかもしれない。

(参考資料)
"Runners line up as Biden vows to pick most diverse cabinet", Financial Times, November 13, 2020
「情報BOX:バイデン米次期政権、有力閣僚候補の顔ぶれ」、ロイター通信ニュース、2020年11月14日

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