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バイデン政権のFRB人事戦略の展望

2020/11/19

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金融規制は強化の方向

バイデン政権が成立することによって、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に大きな変化が生じることはないだろう。FRBは少なくとも向こう3年程度はゼロ金利を維持する姿勢を明らかにしており、これが揺らぐことはないのではないか。

ただしFRBは、金融緩和効果の限界を意識してか、政府に積極的な財政政策を求めている。バイデン政権下で積極的な財政政策が実施されれば、追加金融緩和の必要性は低下する一方、そうでない場合には追加金融緩和策が実施されやすくなるだろう。いわゆるポリシーミックスのもとで、FRBの金融政策は財政政策によって影響を受ける。加えて、バイデン政権によるFRB議長、副議長、理事の人事が、金融政策に多少の影響を与える可能性はあるだろう。

他方、金融政策以上にFRBの政策に変化が生じる可能性が高いのは、金融規制である。トランプ政権の下で進められた金融の規制緩和政策は修正され、民主党政権のもとで規制強化が進む可能性が高い。

バイデン氏は、金融規制機関のトップに規制強化に前向きな民主党関係者を起用することはできるが、銀行の自己勘定取引を制限する「ボルカールール」の見直しなどについては、FRBが事実上の拒否権を握っている状況である。この面からも、FRBの人事によって金融規制の方向性が影響を受けることになる。

格差問題への対応はFRBの役割ではない

また、民主党の綱領には、金融政策において人種間の資産格差等への目配りを強化するようにするFRB改革案が含まれている。ただし、FRBが金融政策を通じて人種間の所得格差を縮小させることを使命とするように、FRB法が改正される可能性は実際には小さいだろう。また、そうした新たな使命は、以下のような点から問題だ。

第1に、格差問題への対応は政府の役割であって、中央銀行の役割ではない。第2に、それを実現するための具体的な目標の設定、その達成を目指す際に参照する指標の選択などで、大きな技術的な問題が生じる。第3に、FRBが政治的な問題に巻き込まれるリスクが高まる。第4に、FRBの使命(マンデート)の数を増やすと、相互の矛盾がより強まってしまう。

こうした理由から、筆者も格差問題への対応を中央銀行の使命とするのは反対である。

バイデン政権発足時に最大3名の理事が空席の可能性

以下では、バイデン政権下でのFRB人事を検討してみよう。任期14年の7人の理事とそこから選ばれる議長、2名の副議長は、大統領が上院の助言と同意に基づいて任命する。つまり、上院の承認が必要となる。

選挙後の新たな上院の議席は、1月のジョージア州での決戦投票まで確定しないが、民主党は良くて共和党と同数の議席獲得にとどまり、実際には過半数を失う可能性の方がやや高そうな情勢だ。

こうしたもとでは、ホワイトハウスや閣僚人事についても同様であるが、議会での承認が円滑に進まない可能性がある。少なくとも、民主党色、左派色の強い人物は上院で承認されない可能性が高まる。その結果、バイデン政権下でのFRBの各種政策が、極端な人選によってトランプ政権から激変することはないだろう。

現在上院では、現在空席となっている2名のFRB理事候補の承認が議論されている。トランプ大統領は、任期終了前に金融緩和に前向きな2名の上院での承認を実現したい考えだが、それが実現するかどうかは分からない。そのうち1名のシェルトン氏については、金本位制の導入を支持してきた一方、理事に指名された後にはその考えを一気に修正するなど、考え方に一貫性がないとして、共和党内でも反対の意見が出ている。

トランプ大統領の任期終了前に両者、あるいは1名のFRB理事候補が承認されない場合には、バイデン氏が年明け後の大統領就任直後にも指名することになる。さらに、ブレイナード理事は、財務長官の有力候補とされる(コラム「動き出したバイデン政権の閣僚人事構想」、2020年11月18日)。同氏が財務長官となれば、理事の空席はもう一つ増え、バイデン氏は最大で3名の理事を指名することになる。

パウエル議長は再認か

また、銀行監督担当のランダル・クオールズ副議長は2021年10月、リチャード・クラリダ副議長は2022年1月にそれぞれ任期を迎える。クオールズ副議長は、金融規制緩和を進めるためにトランプ大統領が指名した人物であることから、規制強化を目指すバイデン氏はクオールズ副議長を再任しない可能性が十分にあるだろう。

そして、最も注目されるのが、2022年2月に議長としての任期を終えるパウエル議長を、バイデン氏が再任するかどうかである。パウエル議長は共和党員だ。トランプ大統領は、民主党寄りとも指摘されたイエレン前議長を再任せず、共和党員のパウエル氏を2018年2月に議長に指名した。

しかし、異なる党派のFRB議長を大統領が指名、再任することは珍しくない。パウエル議長は共和党員ではあるものの穏健派であり、むしろ超党派的とも評されている。さらに、トランプ大統領の露骨な緩和要求をうまくかわしてきたと、共和、民主両党から評価されている面もある。

また、今年8月にパウエル議長が発表した新たな物価目標政策の方針では、従来よりも雇用拡大重視の方針が盛り込まれたことが、労働組合、民主党からも評価されており、パウエル議長の評判を高めた。

任期終了はまだ1年以上先であり、パウエル議長が再任されるかどうかを予測するのは未だ早いタイミングだが、現状では再任される可能性の方がやや高いのではないか。

FRBの独立性は高まり金融市場に好影響も

他方で、仮にパウエル議長が再任されない場合の次期議長候補としては、財務長官に指名されなかった場合にブレイナード理事、パウエル議長の前任のジャネット・イエレン氏、黒人初の地区連銀総裁であるアトランタ地区連銀のラファエル・ボスティック総裁、オバマ政権時代に米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたジェイソン・ファーマン氏、などの名前が挙がっている。いずれの場合にも、金融政策が大きく変わることはないだろう。

トランプ政権がバイデン政権に変わることで、FRBにとっては明らかに改善するのは、大統領による露骨な政治介入が無くなることだ。これは、FRBの独立性、信任を高めるだろう。

またそれを通じて、ドルの安定性、金融市場全体の安定性を高める方向に働くはずだ。

政権交代を最も喜んでいるのは、トラン大統領の理不尽な金融緩和要求の矢面に立ってきた、共和党員のパウエル議長ではないか。

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